備えよ、さらば憂いなし

beethoven_5_cluytens_bpo.jpgもう30年以上も前になるが、ベートーヴェンの交響曲(まずは第5交響曲)を初めて聴いたのは、カラヤン&フィルハーモニア管弦楽団によるエンジェル盤によってだった。それこそ毎日繰り返し聴いて音楽を覚えた。ティーンエイジャーの若造にとってベートーヴェンの、有名な冒頭を持つこの刺激的な作品はクラシック音楽入門にぴったりだった。

作品を自分のものにすると、次に興味をもつのが聴き比べ。フルトヴェングラーの1947年盤も同じ頃に聴いたのだが、こちらは古いモノラルの実況録音物。もちろん大切に聴いたし、今でも史上最強最高の「第5」だと思うが、いかんせん音が貧しいので音の良いステレオ録音でできればもっと聴きたかった。ちょうどその頃、お金を持たない高校生に優しかったのが、LP1枚が1000円~1300円という相場のいわゆる廉価盤。忘れもしないのが、東芝エンジェルから出ていたセラフィム・シリーズ。僕はこのシリーズのお世話に随分なった。

フランスの名指揮者アンドレ・クリュイタンスの名前を知ったのもこのシリーズで。何せ1枚1300円である。ドイツ・グラモフォンの新録音盤が2600円の時代、その半分の値段で購入できるのだからありがたかった。早速、クリュイタンス&ベルリン・フィルハーモニーによる第5交響曲を仕入れた。そして、その音を初めて聴いて吃驚した。当時の僕の耳では、素晴らしく音の良い代物に聴こえた。颯爽たるテンポのパッショネイトな演奏に痺れた。フルトヴェングラー盤と並んで、繰り返し擦り切れるほど聴いた。

ところで、10月に入り、大学での講義が増えている。今年の就職戦線も相変わらず厳しくなりそうだが、学生の目の色はまだまだそうは変わらない。いつの時代でも多いのが、僕は大丈夫だろうと根拠のない自信をもっている甘い輩。「備えよ、さらば憂いなし」と僕は口を酸っぱくしてお伝えする。素直な学生は耳を傾けるが、そうでない学生はそっぽを向く。嗚呼、そういえば、僕にも「天邪鬼」な時代があった。10代のクラシック音楽一辺倒だった頃などまさにそんな時期。ろくに音楽も判らない癖に一丁前にああだこうだと批評ばかりしていた青い頃・・・。まぁしかし、そんな時代があったからこそ逆に人の大切さ、素直に生きることの重要さも身に染みてわかるのだから、そういう時代も決して無駄ではないのだけど。

ということで、懐かしのクリュイタンスによるベートーヴェンでも聴いてみよう。

ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調作品67「運命」
アンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

あの頃の思い出がいっぱい。何も言うことがない。青春、である・・・。


7 COMMENTS

雅之

こんばんは。
この話題、しつこくてすみません。
「ダスビ」についてご紹介する際、金子建志による《(特別寄稿)「ダスビダーニャ」に望むこと》という少し古い文章の中に、まさに今年我々が話題にしていた内容に通じる、興味深く、かつ共感する部分を見つけました。
・・・・・・モーツァルトやハイドンのように、生涯の年齢よりも、交響曲の数が多かった時代ならまだしも、ベートーヴェン以降、作曲家は、交響曲を書く場合、段違いに長い年月を費やすようになった。そこには、単に音響としての面白さだけではなく、精神的な側面や、音響的なメッセージが織り込まれていると考える方が、当たり前なのだが、今日の日本のクラッシック界のように、娯楽性優先、コマーシャリズム優先、話題優先の世の中になると、芸術作品として最も重要な、そうした『意味』を考えることが、どうしても疎かになりがちなのだ。
 筆者は[フランス革命→ナポレオン戦争]を背景に生きたベートーヴェン-最も典型的なのは〈エロイカ〉〈運命〉〈第9〉、そして〈7番〉と〈ウェリントンの勝利〉-と、[希望に満ちた共産主義→恐怖政治に摩り変わった共産主義]という、20世紀最大の実験国家の中に生きたD. S に、極めて近いものを感じている。
 ストラヴィンスキー、プロコフィエフ、ラフマニノフとは違って、国外に逃れようとはせず、生涯を通じて、祖国に留まってソ連政府と対峙する道を選んだD. S の生き方の毅さも、パトロンの貴族達が逃げ出した後も戦禍のウィーンに留まって作曲を続けたベートーヴェンに通じると思う。見掛けは、おどけてみせたり、陽気に騒いでみせたりしても、その底に、常に不屈の精神が感じられるのも、同じだ。そして、国家や社会が、人間的なものと、非人間的なものとに分かれたとき、常に人間的な側に立って、真実を語り続けることも・・・・・・
http://www.dasubi.org/dsch/library/nekoken.html
クリュイタンスのベートーヴェンは、私も昔よく聴きました。良いとか悪いとかの評価の前に、とにかく懐かしいです。
 

返信する
岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
ネコケン氏による解説はいつも勉強になります。
ご紹介をありがとうございます。
>精神的な側面や、音響的なメッセージが織り込まれている
>芸術作品として最も重要な、そうした『意味』を考えること
このあたり重要ですよね。同じく共感します。

返信する
じゃじゃ馬

こんにちは。
ダスビの話題で盛り上がってますね。
このブログ、ダスバーにチェックされそうですね!
過去何度か演奏会に行きましたし、出ないかと誘われたこともあります。
でも、自分のショスタコへの愛情の度合いを考えると出ないほうがよし!と判断しました(笑)
そのくらいみなさんショスタコお好きなようです。

返信する
岡本 浩和

>じゃじゃ馬さん
ご無沙汰してます。
ダスビって知らなかったんですが、かなり興味深いですね。
さぞかしショスタコ好きが集まっているんだろうと・・・(笑)。
ちなみに、演奏会はどうでした?熱かったですか?!

返信する
じゃじゃ馬

熱いですよ~~~。
ちなみに雅之さんがURL載せていらっしゃる演奏会も聴きに行きました。
演奏技術的には、そんなに技術上手な人間が集まっているとは思えないんですね。もちろんアマとしては相当高いほうではありますが。
でも、そういうことじゃないんだな、と思わされる演奏をしますよ。
聴いてみる価値はあると思います。
ただ弾いているプロ(があるとしたら)それよりずっといい演奏が聴けると思います。

返信する
岡本 浩和

>雅之様、じゃじゃ馬様
それはますます聴きたくなりました!
来年2月の公演は何としても行きます!

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む