鹿乃子の夕べ~アンサンブル・ジョカーレ

ginza_kanoko_101212.jpg銀座鹿乃子本店で毎月開催されている「鹿乃子の夕べ」。ハンブルク交響楽団、大阪フィル、そして名古屋フィルのホルン奏者として活躍された吉積光二さんを中心に、フルートの安藤よしのさん、ピアノの野田淳子さんによるアンサンブル・ジョカーレによる楽しいひととき。
本日のメイン・プログラムは、吉積さんがブラームスのホルン三重奏曲にインスパイアされ選ばれたという、宮澤賢治の「よだかの星」の朗読付音楽物語。この少々暗めの童話とブラームスの若き日の名作が見事にクロスオーバーする・・・。

後半はすっかり気分を変え、クリスマス・メドレー。”Oh Holy Night”や”Silent Night”、そして童謡「雪」にルロイ・アンダーソンの「そりすべり」など。クリスマス間近の銀座で奇跡が起こる。コンサートが終わった瞬間に向かいの和光の時計台の午後9時を告げる鐘の音。朝比奈隆&大阪フィルによる聖フローリアンの一件の如くまるで計ったかのような神のご加護か・・・(笑)。

終演後、吉積さんから個人的に面白い話をいくつも聴かせていただいた。ここのところホルンという楽器に興味をもっているものだから、どの話も本当に新鮮で「へぇ」の連続(古いか?!)。例えば、ベートーヴェンが「エロイカ」を作曲した当時のホルンはまだバルブやレバーが備わっておらず、EsとFを転調のため切り替えるのに、例えば第3楽章では20小節ほどの「お休み時間」があるということや、第9の第3楽章のちょうど真ん中あたり(今スコアが手元にないので何小節目か特定できない・・・涙)で木管と絡みながらホルンが美しい旋律を吹くところは、その時期にちょうどレバーが発明されてベートーヴェンが革新的にチャレンジしたこと、しかも自信がなかったものだから第4ホルンに吹かせる指定(昨今のオケではもちろんこの指示は無視して第1ホルンが代わりに演奏するらしいが)をしていることなど専門家じゃないと知らないだろう話がいくつも聞けて、とても満足のゆく時間だった。

帰宅後、早速件の箇所を音盤で確認。とりあえず第9の第3楽章をバーンスタイン&ウィーン・フィル盤クリュイタンス&ベルリン・フィル盤、そしてジンマン&チューリヒ・トーンハレ盤で。

年末のこの時期、世間はベートーヴェンの第9で一色になるが、僕自身はここ数年もはや聴くことはなくなった。もちろんもう何年も実演に触れていない。とはいえ、吉積さんの話に触発されて久しぶりに師走に聴いてみて、何だか感動した。今日は12月とは思えない暖かさだが、この心温まる音楽によってより一層元気が湧く。特にホルンに注目して聴いてみると涙が出そう・・・。何とも優しい音色・・・。

2 COMMENTS

雅之

おはようございます。
吉積光二さん他によるコンサートの御体験、羨ましいです。
金管楽器発達の歴史も、ピアノ同様、産業革命と密接に関係がありますよね。
http://classic.opus-3.net/blog/cat29/post-575/index.php#comment-3968
私の愛読書から得た知識も、少しご紹介します。
・・・・・・19世紀に入り、ドミソの自然倍音だけでは物足りなくなった金管楽器奏者たちは、木管楽器と同じキー装置を付けるなど、いろいろ試みるようになった(トロンボーンはすでに15世紀に、管の収縮により異なる管長を得るスライド装置を、ホルンは18世紀中頃にベルを右手に突っ込んで操作することで音程を変えるハンド・ストッピングという方法で半音階を得ていた)。その中で、一番の成功例は、今日一般的になっているヴァルブ装置の発明。ヴァルブを最初に発明したのは、炭坑夫でもあったホルン奏者で、炭坑に送り込む空気の管の分岐装置からヒントを得たと言われている。まさに、産業革命の申し子と言えよう。
 このヴァルブ装置が金管楽器に付けられるようになったのが19世紀前半。保守的な奏者が、「邪道」とも言えるこの装置に切り替えるにはずいぶん時間がかかったようだが、保守的に思われがちなウィーンでは、かなり早い時期に、ヴァルブ装置が装着された金管楽器が導入された(トランペット、ホルン、トロンボーン!にヴァルブが付けられた。このときの形を変えずに残っているのが、ウィーン・フィルが使用しているウィンナホロン)。・・・・・・佐伯茂樹(著) 〈名曲の「常識」「非常識」オーケストラのなかの管楽器孝現学〉(音楽之友社 2002年第一刷 現在絶版か?)より5~6ページ
※参照 ウィキペディアより「ホルン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%AB%E3%83%B3
>(今スコアが手元にないので何小節目か特定できない・・・涙)
ベートーヴェン〈第九〉の該当部分は、第3楽章の96小節~です。
少し補足しますと、ご指摘の「エロイカ」第3楽章のような慎重な当時の“替管”ホルンの扱いからすると、〈第九〉の場合、第2楽章でB管を吹いていた3・4番奏者が第3楽章でEs管に替え、第4楽章で再びB管に戻すというのは、二重の手間がかかるわけで疑問があります。しかし、1・2番と3・4番が吹くパートを交換すれば、3・4番は全楽章を通じてB管のままでよく、1・2番奏者がD→Es→Dと替えるだけで済むのだから、ずっと合理的です(その場合、4番ホルンのパートに書いてあるソロは、1・2番奏者のどちらかが吹くのが合理的ということになります。
もうひとつ重要なのは、このホルンの用法が、ホルンを4本使う場合、2本を自然ホルン、残りの2本を新式のヴァルブ・ホルン用に書くという、ワーグナーの〈リエンチ〉〈タンホイザー〉やシューマンの〈マンフレッド〉序曲に見られる“そろばんと電卓を併用する”ともいうべき過渡的なスコアリングと極めて似ている点です。
いずれにせよベートーヴェンは当時はまだ実験的な段階だったヴァルブ・ホルンの将来性を見越し、その可能性をこの第3楽章で示したかったようです。ただし、新参楽器なので4番ホルンのパートに書いた、ということのようです(「NHK趣味講座 第九を歌おう 井上道義」 〈平成元年12月1日 日本放送出版協会〉内の金子建志氏のコラム『第九講座』56~57ページを参照して書きました)。
金管楽器発達の歴史を知ると、例えばブルックナーの交響曲の聴き方ひとつにしたって、ずいぶん変わると思います。そこに、弦楽器における現在のピリオド楽器奏者による「誤った歴史認識」が是正され、より即興的だったりロマン主義的だったりした昔の演奏様式と重ね合わせると、当時行われた演奏様式の実像を、相当的確にイメージすることが可能になると思います。そうすると、「正統」とか「異端」とかのブルックナー演奏についての一般的に行なわれている議論も、そのほとんどが「ナンセンス」と結論付けざるを得なくなります。

返信する
岡本 浩和

>雅之様
こんにちは。
昨日吉積さんから立ち話的に教えていただいた話だったのでうろ覚えだったのですが、雅之さんからより丁寧にご教示いただいたお陰で一層楽器聴きに興味を持ちました。さすがにオーケストラをやられているだけありますね。勉強になります。ありがとうございます。
>ワーグナーの〈リエンチ〉〈タンホイザー〉やシューマンの〈マンフレッド〉序曲に見られる“そろばんと電卓を併用する”ともいうべき過渡的なスコアリング
こんなことも僕は知りませんでした・・・(涙)。
>金管楽器発達の歴史を知ると、例えばブルックナーの交響曲の聴き方ひとつにしたって、ずいぶん変わると思います。
>、より即興的だったりロマン主義的だったりした昔の演奏様式と重ね合わせると、当時行われた演奏様式の実像を、相当的確にイメージすることが可能になると思います。
おっしゃるとおりですね。そうなると本当に「正統」も「異端」もありません。本日もありがとうございました。

返信する

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください

アレグロ・コン・ブリオをもっと見る

今すぐ購読し、続きを読んで、すべてのアーカイブにアクセスしましょう。

続きを読む