パリのアメリカ人

gershwin_detoit_montreal.jpg「東京大学のアルバート・アイラー」が止まらない。今読んでいるのは「東大ジャズ講義録・歴史編」の方だが、こういう専門的かつ緻密でありながら、あらゆる知識を総動員してのスピード感のある講義を見せつけられると、僕が細々とやっている「早わかりクラシック音楽講座」なんて糞みたいなものだと思え、自嘲気味の笑いすら込み上げてくる。
どの講義もさすが東大の講義というレベルのもので(しかし、いくら東大とはいえ音楽の専門的な知識を持たない学生や、ましてやジャズの「ジ」の字も知らない学生にとってはだいぶ苦痛を覚える講義だったんじゃないかな)、僕などもジャズのイロハの「イ」から見事に勉強したくなるほど夢中になれるし、少なくとも手持ちの音盤に関しては講義録を片手にもう一度じっくり聴き込みたいという「熱」が再燃しそうだ(いや、厳密には「再燃」じゃない。人生の中でこれほどジャズに真面目に興味を持ったことはなかったろうからひょっとすると「初恋」みたいなものなのかも)。さらには、所有していない音盤も聴きたくなる、欲しくなる(この「病気」がまずい・・・苦笑)。

ビバップからハード・バップへ、あるいはクールを飛び越してモードへ。1950年代の、それまで抑圧されていたあらゆるものが噴出するその時代の流れと相俟って、ジャズが急発展してゆくというそのプロセスは驚異的だ。当時をアメリカで過ごしたいわゆる帰国子女のはしりの人たちは単に「古き良き時代」と表現するが、そこはまだまだ黒人が当然のように差別されていた時代。白人優位主義という風潮の中で、黒人の音楽であるジャズが黒人のパワーで大きく変貌してゆく様は見事としか言いようがない。そのことは未来である今の時代だからこそ客観的に振り返ることができるのだけど。

ところで、大阪万博で受け手がいなかったシンボル(太陽の塔)の制作依頼を快諾した偉大なる天邪鬼岡本太郎は万国博覧会について次のように言う。

僕は進歩と調和という万博のテーマを信じない。
調和は妥協に過ぎないし、
進歩主義という観念自体も信じない。

こういう「反発精神」こそが真の芸術を生み出す起爆剤になる(まさに「芸術は爆発だ!」)。50年代のアメリカの黒人たちに鬱積していたエネルギーが音楽に変換されて劇的なジャズの発展につながるのと同様に。

今日もリアルにジャズを追っていこうかとも思ったが、少しフェイントでガーシュウィン。
ちなみに、太郎がパリに留学する数年前に、ジョージ・ガーシュウィンはラヴェルやストラヴィンスキーに教えを乞うためパリを訪問する。ラヴェルから「君は一流のガーシュウィンなのに、何も二流のラヴェルになることはないだろう」と逆に励まされたという話は有名だが、結果的にガーシュウィンは彼らから何かを教わるという機会を得ることはできなかった。しかし、パリ訪問の経験がすぐさま彼に音楽創造へのインスピレーションを与える。

ガーシュウィン:
・パリのアメリカ人
・ラプソディ・イン・ブルー
・交響的絵画「ポーギーとベス」(ロバート・ラッセル・ベネット編)
・キューバ序曲
ルイ・ロルティ(ピアノ)
ロバート・クロウリー(クラリネット)
ジェイムズ・トムソン(トランペット)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団

「これは私の試みた最も現代的な作品で、この曲は一人のアメリカ人がパリを訪問し、様々な騒音に耳を傾けながら街を歩き、フランス的な環境を少しでも吸収しようとしている姿を描いたものだ」~ジョージ・ガーシュウィン

デュトワの棒は都会的で軽妙かつお洒落。彼の音楽性は非ドイツ系の音楽にはぴったりかも。来月のN響とのラヴェル&ショスタコーヴィチが楽しみだ。


2 COMMENTS

雅之

こんばんは。今夜は私もフェイントから・・・。
岡本さんのブログのコメント欄でのやり取りを通じ、モーツァルトやベートーヴェンでのホルンの話題あたりから、俄然、金管楽器の魅力に目覚めてしまいまして、ジャズではトランペットと(金管楽器ではありませんが)サックスを、ますます好きになりました。最近では谷啓さんがお亡くなりになって、トロンボーンが気になったりもし、それまでの弦楽器主体の音楽の聴き方から、ずいぶん幅が拡がりました。
そして、直近聴いたSACDはというと・・・。
『Tubest!』 次田心平(テューバ) 新居由佳梨 (ピアノ)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3885084
『バラード』 山本浩一郎(トロンボーン) 江口玲(ピアノ)
http://www.hmv.co.jp/product/detail/3857724
次田さんも山本さんも舌を巻くほど上手いし、音楽的にもじつに味わい深いですよ。思わず聴き惚れてしまいます。
>(いや、厳密には「再燃」じゃない。人生の中でこれほどジャズに真面目に興味を持ったことはなかったろうからひょっとすると「初恋」みたいなものなのかも)。
それは、私もまったく同じなんですよ。クラシック音楽の最大の弱点は、いつの間にか作曲家と演奏家が分業になってしまったことと、即興性に乏しいきらいがあることだと薄々感じていたこともあり、対照的なジャズにどんどんのめり込みそうで困っています(笑)。
>僕が細々とやっている「早わかりクラシック音楽講座」なんて糞みたいなものだと思え、自嘲気味の笑いすら込み上げてくる。
馬鹿言っちゃいけません。私の音楽の趣味をここまで成長させてくれたのは、紛れもなく、菊池さんの本からよりも、岡本さんから与えていただいた膨大な知識と刺激からによるところが何十倍も大きいです!!
岡本さんには、いつも感謝の極みなのですよ!!!(あまり言わないけど・・・爆)

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
いやしかし、興味をもたれたら即座に反応される雅之さんの行動力にはいつも感動させれます。ご紹介のトロンボーンの音盤はいずれも未聴です。面白そうですね。
>対照的なジャズにどんどんのめり込みそうで困っています
これはもうほんとに共感します。絶版になっている「マイルス・デューイ・デイヴィスⅢ世研究」を何とか手に入れたいと思ってましたが、どうやら来年には文庫本で出るようですから、待つことにしました。
>菊池さんの本からよりも、岡本さんから与えていただいた膨大な知識と刺激からによるところが何十倍も大きいです!!
ありがとうございます。雅之さんあっての岡本でございます。今後ともよろしくお願いいたします。

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