融け合う

sonny_rollins_saxophone_colossus.jpgマイルス・デイヴィスについて少しずつ調べようとネット・サーフィンしていたら、タモリが帝王マイルスにインタビューするという映像を見つけた(1985年に「今夜は最高!」でオンエアされたものらしい。懐かしい!)。マイルスって小っちゃいんだな、というのが第一印象。とはいえ、何とも強烈なオーラ、存在感がやっぱり並大抵でない。タモリが若い頃とはいえ恐縮して小さくなってしまっているのが妙に面白い。当のマイルスはインタビュー中、何やらずーっと絵を描いている、そんな姿勢が個性的というか変人的というか・・・、「天才」のやることは我々「凡人」の想像を遥かに超えるものなんだということが、この日常の一シーンを見てもわかる。ちなみに、同じ番組だと思うが、岡本太郎との対談も発見した。こちらも見逃せない。タモリとの掛け合いがこれまた絶妙の面白さだが、何より岡本太郎の言葉のひとつひとつが実に興味深く、深い。

例えば、氏名について。
「名前なんかない方がいいんです、本当はね。例えば人間だけですよ、自分の名前を意識して、そのために碌な行動をしないでしょ?人の目を気にして。・・・ところが、鳥を見てごらんなさい、動物を見てごらんなさい。名前なんか持ってないし、自分の名前なんかどうでもいいんですよ、ほんとは。人間の虚しさというのは、名前があるから逆に、それにこだわるから虚しくなっているので・・・。」
あるいは、恋愛や結婚について。
「結婚しようとか何とかって言うのはなくてほんとに融け合ってね、同棲生活10何回もあったですよ。・・・平気で一緒くただけど結婚しようなんて言ったことは一度もない。・・・日本だとね、融け合わないうちから結婚してくださいだ、結婚しましょうなんていうと、うーん、まるで就職するつもりでいるんだ・・・。」

氏名は使命につながるという。左脳的にこれが自分の使命なんだとこだわることが、逆に虚しさを呼び、うまくいかない原因になるのかも。要は理屈ではなく、生きたいように、自然に生きろということを彼は言いたいのかも。それは「融け合う」という言葉にも表れる。結婚なんていうのは人間が作ったただのルールに過ぎないのだと。「融け合う」とは肉体も心もひとつになるんだということを言っているんだと僕は思う。

太郎がパリに留学した1930年頃は、ちょうどモーリス・ラヴェルが左手のためのピアノ協奏曲やピアノ協奏曲を作曲していた時期に重なる。世界恐慌に始まり、以後第二次世界大戦に直結していく混沌のはじまりの中にあったからこそ、芸術というものが一層羽ばたいた。ヨーロッパ音楽はアメリカ音楽、いわゆるジャズの影響を受ける。ラヴェルの音楽も然り。スウィング・ジャズからスタートし、ビバップ、ハード・バップ、そしてクール、モードとわずか2,30年で凄まじいまでの進化を遂げるジャズの世界。

Sonny Rollins:Saxophone Colossus

Personnel
Sonny Rollins(ts)
Tommy Flanagan(p)
Doug Watkins(b)
Max Roach(ds)

随分前に初めて聴いたとき、例によってピンと来なかった。50年代ジャズを代表する屈指の名盤といわれても、・・・、という印象だった。久しぶりに聴いて気持ちは変わった。やっぱり「不滅」かも。温かみのあるサックス・プレイがクール。マイルスのような強烈なリーダーシップで引っ張るのではなく、あるいはコルトレーンのような神憑り的なプレイでメンバーをまとめ上げるのでもなく、あくまで「サイドメンたちに委ねながらも決してアイデンティティを失わず」というスタイル。「融け合う」という言葉が一番相応しいかも・・・。だから50年以上の時を経た今も輝き続けるのだろう。


3 COMMENTS

雅之

おはようございます。
いやあ、タモリの対談、懐かしいし、面白いですねー。
ホント、マイルスに対しては、あのタモリがえらく緊張しているのが、堪らないですね(笑)。これは、とてつもなく貴重な映像ですね。
岡本太郎との対談も最高ですね。
「きれい、きれいに描く、きれいだね、なんていうのは芸術じゃない?」
「そう。何だ、これは!!? というのが芸術」
なんていうところも、真骨頂ですね(笑)。
昨日、水木 しげる (著)「墓場鬼太郎 (1) (角川文庫―貸本まんが復刻版」
http://www.amazon.co.jp/%E5%A2%93%E5%A0%B4%E9%AC%BC%E5%A4%AA%E9%83%8E-%E8%A7%92%E5%B7%9D%E6%96%87%E5%BA%AB%E2%80%95%E8%B2%B8%E6%9C%AC%E3%81%BE%E3%82%93%E3%81%8C%E5%BE%A9%E5%88%BB%E7%89%88-%E3%81%BF18-7-%E6%B0%B4%E6%9C%A8-%E3%81%97%E3%81%92%E3%82%8B/dp/404192913X/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1288561301&sr=1-1
を読みました。本来の鬼太郎は、今の子供がイメージするような、ソフィスティケートされた存在ではなかった。現在の漫画やアニメにはない、私達が子供のころ暗い夜道で草葉の陰に確かに感じ取ることができた、本物の「妖気」が、ここにはいっぱい詰まっています。
また、同時に、工藤 美代子(著)「悪名の棺―笹川良一伝」も読み始めました。
http://www.amazon.co.jp/%E6%82%AA%E5%90%8D%E3%81%AE%E6%A3%BA%E2%80%95%E7%AC%B9%E5%B7%9D%E8%89%AF%E4%B8%80%E4%BC%9D-%E5%B7%A5%E8%97%A4-%E7%BE%8E%E4%BB%A3%E5%AD%90/dp/4344019024/ref=sr_1_1?s=books&ie=UTF8&qid=1288562007&sr=1-1
・・・・・・メザシを愛し、風呂の湯は桶の半分まで。贅沢を厭い、徹底した実利思考と天賦の才で財を成すも、福祉事業に邁進し残した財産は借金ばかり。家庭を顧みず、天下国家、世のために奔走。腹心の裏切り行為は素知らぬ顔でやり過ごし、悪くは“有名税”と笑って済ませた。仏壇には、関係した女の名が記された短冊を70以上並べ、終生、色恋に執心した。日本の首領の知られざる素顔。・・・・・・
やはり、昭和から平成になり、すべての分野で、人間のスケール、器、度量が、小さくなってしまったと感じるばかりです、それが善いことか悪いことかは別ですが・・・。「水清ければ魚棲まず」「水清ければ大魚なし」かも。
ご紹介の「サキコロ」、おっしゃるとおりいいですよね。アドリブのスリルも充分に満喫できます。こういうジャズ・ファン以外にも有名な音盤を絶賛すると、通の方から馬鹿にされそうだし、最近の我々のジャズ論議だって、もう方々で語り尽くされていることかもしれないけど、クラヲタの私にとっては、じつに新鮮な気分です(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
おはようございます。
いつもながら幅広い知的好奇心に感服です。
ご紹介のいずれの書籍も面白そうですね。
>昭和から平成になり、すべての分野で、人間のスケール、器、度量が、小さくなってしまったと感じるばかりです
まったく同感です。笹川さんは僕の世代にとっては船舶振興会のコマーシャルで「人類みな兄弟」って叫ぶ姿が懐かしいですが、一方で「悪」のイメージがありましたからね。これは読んでみたいと思いました。
>通の方から馬鹿にされそうだし、最近の我々のジャズ論議だって、もう方々で語り尽くされていることかもしれない
いやいや、いいんです。岡本太郎じゃないですが、人目を気にするのはよしましょう。(笑)

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