ツィマーマンのショパン 4つのバラードほか(1987.9録音)を聴いて思ふ

ショパンはもう滅多に聴かなくなった。

澄んだ空気と冷たい風。秋はますます深まり、突如として世界は変わる。
夜更けに音楽に身を沈めると、心なしか人恋しくなる。同時に、かつて繰り返し聴いたショパンの音楽が恋しくなる。不思議なものだ。

幸福と悲惨がいっしょなのだ。幸福の方に、すべてが良い方に移り動いてゆく。過去の傷あとを悔いいたむ。屍も嘆くことをやめたときのぼくと同じに感じているにちがいない。ぼくの感情がいわば一時死んだということが自分でもよくわかる。—一時ぼくの心が死ぬのだ、いや、むしろぼくの心がぼくために存在することをやめるのだ。なぜいつもそうではないのか?そうだったら、きっともっと容易にそれに耐えられるだろうに。孤独!全くの孤独!
(1831年9月8日より後、ショパンのアルバムより)
アーサー・ヘドレイ著/小松雄一郎訳「ショパンの手紙」(白水社)P129

ツィマーマンの弾く、バラード第1番の孤独(絶妙なためとルバート!)。壮大な造形の内側に、言葉にならない寂しさが常に宿るのは、ショパンのバラードの常套。

彼は新しい《ト短調のバラード》(1831年にスケッチにかかり1835年完成した)をくれました。それは最高の霊感にみちた作品だとわたしは思います(かりに、天分が最高に発揮された作品でないとしても)。わたしは彼の作品のなかでこれが一番好きだといいますと、彼は長い間考えこんだあげく、非情に力強い語調で「そういって下さってありがとう。わたしもこれが大好きなのです」と言いました。
(1836年9月14日付、ライプツィヒのロベルト・シューマンよりリガのハインリヒ・ドルン宛)
~同上書P193

間違いなく傑作だ。
そして、後期の名作バラード第4番の透明さ、高貴さ、静けさ。

ショパン:
・バラード第1番ト短調作品23
・バラード第2番ヘ長調作品38
・バラード第3番変イ長調作品47
・バラード第4番ヘ長調作品52
・舟歌嬰ヘ長調作品60
・幻想曲ヘ短調作品49
クリスティアン・ツィマーマン(ピアノ)(1987.9録音)

ジョルジュ・サンドとの恋の終局間際の「舟歌」の哀感。

偏頭痛はよくなられ、気分もこれまでよりよいことと考えているのですが。家じゅうみんな帰られてうれしいことです。お天気もいいのでしょう。パリのお天気は暗く、湿っぽく、みんなかぜです。グジマウァはよくなりました。この14日間来はじめて1時間ばかりねむれたようです。
(1846年11月25日付、ノアンのジョルジュ・サンド宛)
~同上書P373

互いに気を遣う中に生じるすれ違いの切なさ。若きツィマーマンのピアノは、そのあたりの心情をとてもうまく汲み取っているようだ。暗い情熱に溢れる「幻想曲」も出色。ツィマーマンは音楽の根底にある心象を音化するのがとてもうまい。

久しぶりに聴いたショパンはとても美しかった。
久しぶりに聴いたクリスティアン・ツィマーマンのピアノは、とても自然体だと思った。

 

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