ウラッハのブラームス クラリネット三重奏曲ほか(1952録音)を聴いて思ふ

はっと目が覚める。
ずっと長い間手もとにあったのに、そして、随分以前に繰り返し幾度も耳にしていたのに、すっかり記憶は遠い彼方に追いやられ、あの時に感じていた新鮮味がふとした瞬間に突然思い出されるのだから、人間の感覚とはとても不思議だ。

憧憬と懐古。
たぶん古き良き欧州の本当の音を知る人は泣いて喜ぶ録音なのだろうと思う。
指がキーを操る音までもが鮮明に収録されるその録音は、66年以上経過した今も、好事家の羨望の的となるであろう、美しくも柔らかい音楽を僕たちに届けてくれる。

音楽家の偉大さは当然のこと、何より旧い録音がこうやって日常的に耳にできることに感謝の念が湧く。否、それよりも技術の(発展の)偉大さか。

ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の首席奏者だったレオポルト・ウラッハは、1956年5月7日にわずか54歳でこの世を去った。(もちろん録音でしか知らないのだけれど)僕はウラッハのクラリネットのふくよかな音色が昔からとても好きだった。

ブラームス:
・クラリネット三重奏曲イ短調作品114(1952録音)
レオポルト・ウラッハ(クラリネット)
フランツ・クヴァルダ(チェロ)
フランツ・ホレチェック(ピアノ)
・クラリネット五重奏曲ロ短調作品115(1952録音)
レオポルト・ウラッハ(クラリネット)
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団

リヒャルト・ミュールフェルトの演奏に触発され、(創作力の衰えからすでに作曲の筆を折る決断をしていた)晩年のヨハネス・ブラームスが再びやる気を取り戻し、書き上げた2つの傑作。(何よりクララ・シューマンにミュールフェルトのクラリネットを聴かせたいと生み出したお気に入りの)三重奏曲に思わず熱くなる。
第1楽章アレグロの、ほとばしる暗い情熱は相変わらずのブラームスの調子。また、第2楽章アダージョは、特に3人の奏者の深い絆が感じられる求心力の賜物のような演奏で、聴いていてずっと涙がこぼれる落ちるくらい。そして、短い第3楽章アンダンテ・グラツィオーソの愉悦に心躍り、終楽章アレグロに、老ブラームスの内なる作曲の喜びを垣間見、思わず快哉を叫びたくなるのである。
名曲だ、最高傑作だ(ミュールフェルトとの邂逅がなければ、作品117も作品118も、そして作品119も生まれなかったということだ。何と言うことだろう。それだけにこの2つの作品の存在意義は実に高い)。
五重奏曲ももちろん素晴らしい。
しかし、ブラームスがピアノの入った三重奏曲の方をより好んだように、今の僕は三重奏曲を心から愛する。

かれこれ40年近く前、繰り返し親しんで聴いていた演奏家と、今の僕が年齢を並べているという不思議。そういえば、ウラッハが亡くなった日は、ブラームスの生誕日だ。

 

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