ウラッハ クヴァルダ ホレチェック ブラームス クラリネット三重奏曲イ短調作品114(1952録音)

一旦筆を折ろうと決意した矢先、リヒャルト・ミュールフェルトとの出逢いをきっかけに、ヨハネス・ブラームスは4つの傑作を生み出した。

無愛想な態度をとってはいるが、彼は実際には優しい心の持ち主だ。私は何度もそうした面を見ている。彼は気づいているのさ—霊感が訪れる、あの超越的な状態にある時の彼自身の体験を具体的に知れば、後世の作曲家にとって大いに価値があるだろう、と。若い頃にあの秘密を知ることができたなら、私にも計り知れない価値があったはずだ。私はブラームスに出会う前の初期の頃にも、メンデルスゾーンやシューマンとの交際を通じて、大作曲家になる野望を抱いていた。
アーサー・M・エーブル著/吉田幸弘訳「大作曲家が語る音楽の創造と霊感」(出版館ブック・クラブ)P116

ヨーゼフ・ヨアヒムの言葉には、ブラームスへの(決して負け惜しみでない)賞賛の念が刻印される。実際、最晩年の作品に見られる(すべてが削ぎ落された)枯淡の、それでいて官能の極致(?)たる音調は、作曲時に天とつながるブラームスの境地の高さを示すものだ。

・ブラームス:クラリネット三重奏曲イ短調作品114(1891)
レオポルト・ウラッハ(クラリネット)
フランツ・クヴァルダ(チェロ)
フランツ・ホレチェック(ピアノ)(1952録音)

第1楽章アレグロにおけるウラッハのクラリネットの儚さは、ブラームスの諦念を見事に表現する。第2楽章アダージョは、ブラームスの心根の優しさの表れだろうか。あるいは、第3楽章アンダンティーノ・グラツィオーソの懐かしさこそブラームスを聴く喜びだ。中でも興味深いのは、終楽章アレグロにおいて、ウラッハのクラリネットが希望の光に溢れることだ。ブラームスはミュールフェルトの演奏によって生気を取り戻したのだと思う。

バッハやベートーヴェン、モーツァルトは、私よりも多く霊感を受けていたのだ、ヨーゼフ。この3人は皆、何よりもよどみなく自然に流れ出るような旋律の流れを持っていた。シューベルトもそうだ。だが、私にはそれがなかった。
~同上書P101

ヨハネス・ブラームスは謙虚だ。
自らを冷静に反省できることは向上心の裏返しであり、ブラームスが常に進化し続けたことの証である。それゆえに最晩年の作品群はどれも美しい。

過去記事(2019年1月2日)
過去記事(2012年6月8日)


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