計画された偶発性

Monks_Music.jpgキャリアについて考える時、スタンフォード大学のジョン・クランボルツ教授が提唱した「計画された偶発性(Planned Happenstance)」理論は、まだまだ適性が明確に見えていない20代の若者たちにとって未来を楽観的に考え、自身を導く材料として近年注目を浴びるようになってきているらしい。キャリアというものは、用意周到に計画して準備できるものではなく、むしろ偶然に目前に起こっていく事柄を知らず知らず捕らえているうちに積みあがっていくものだという考え方である。
なるほど、僕自身も20年前にはまさか今のような状況、あるいは職業に就いているとは想像もしなかったし、振り返ると、偶然の選択の積み重ねにより「今」ができあがり、結果として「あるべきキャリア」に結びついているのだから、「やりたいこと」が見えなくても決して悲観することはないのだと相談に来る若者には助言している。むしろ、20歳や30歳で明確に方向性が見えているとしたら、それはプロ・スポーツの世界に稀にいる一流選手(例えばイチロー然り、北島康介然り)のような存在で、ほとんどの場合ががそうでないということを知っておくといい。

クランボルツ教授の理論
・偶然に起こる予期せぬ出来事によって決定されている事実がある。
・その偶発的な出来事を、主体性や努力によって最大限に活用し、力に変えることができる。
・偶発的な出来事を意図的に生み出すように、積極的に行動することによって、キャリアを創造する機会を生み出すことができる。
~「GCDF-Japanキャリアカウンセラートレーニングプログラムテキストブック」

今日は、ジャズ界の巨人、セロニアス・モンクの91回目の誕生日である。その最初の音からモンクの至高の世界に誘われる傑作を久しぶりに聴く。

Thelonious Monk Septet:Monk’s Music

Personnel
Thelonious Monk (p)
Ray Copeland (tp)
Gigi Gryce (as)
John Coltrane (ts)
Coleman Hawkins (ts)
Wilbur Ware (b)
Art Blakey (ds)

1曲目のゴスペル「Abide with Me」の敬虔な祈りの世界。たまらない!そしてこのアルバムをまさに有名にした、いわくつきの演奏である2曲目「Well, You Needn’t」。アルバムに収められた解説書から事情をそのまま抜粋するが、「この演奏の最初のモンクのソロの最後で、何とモンクが、『コルトレーン、コルトレーン!』と2度ほど叫ぶのである。驚いたドラムのブレイキーとベースのウェアは、演奏を間違ってしまう。ウェアにいたっては、周囲をうかがうように同じ音を出し続けるという状態である。これは、長い間モンクとブレイキーの勘違いと説明されてきたが、キープニュースの証言だと、次のソロイスト、コルトレーンが睡魔に誘われ、ウトウトしていたのを見たモンクが、思わず叫んだのだという。つまり、モンクは間違ってなかった。しかし、その突然の叫びは、ブレイキーたちを混乱させ、上記のような混乱を引き起こしたのである。」ということらしい。そして、日本盤アルバムの解説者である青木和富氏は「こうした重大な事故を含む演奏は、常識的には失敗作ということになる。にも関わらず、この演奏は、その不意の事故を含め、素晴らしいジャズの表現になっている。」と結んでいる。

まさに「予期せぬ出来事を避けるのではなく、起きたことを最大限に活用する」という「計画された偶発性」!

特に、音楽という、瞬間に音が消えていく芸術に関しては、いわゆる「即興性」こそ表現手段の最大のポイントであり、「起きたことを最大限に活用した」実演を目の当たりにすることが音楽を聴く喜び、そして醍醐味だと僕は思うのである。クラシック音楽であれ、ジャズであれ、ジャンルを超え、そのことに相違はない。

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