
静かなる現代の音楽。
おそらくそこにあるのは慈しみなのだと僕は思う。
ただし、決して聖なる音楽ではない。そこには、あまりにも人間的な、ときに俗っぽいほどの、わかりやすい、慰めの、また癒しの音楽が、どの瞬間にも開かれている。
アルヴォ・ペルトの「鏡の中の鏡」に、一滴の水から始まる波紋を思う。
静かだ。しかし、延々と続いてもおかしくない永遠がここにはある。
僕は、ピンク・フロイドのアルバム「ウマグマ」を想像する。そう、ヒプノシスによるあの不思議なジャケット・カバーを持つアルバムだ。そして、同時に、そこからは、ロジャー・ウォーターズによる”Several Species of Small Furry Animals Gathered Together in a Cave and Grooving with a Pict”の、こちらは動的な、また奇妙な、ただし、耳について離れない音楽とも言えない音楽が迫ってくるのである。
楽器がヴァイオリンだろうとヴィオラだろうと、あるいはチェロだろうと、そこにあるのは無限の時間だ。否、時間の無限だ。
また、「アリヌシュカの癒しに基づく変奏曲」、そして「アリーナのために」の、途方もない美しさ。時代錯誤の浪漫ではなく、あくまで20世紀的色彩を帯びた単調さの中の複雑さ。ロックだ、律動だ。

「“ウマグマ”というのは、実はシドとロジャーとデヴィッドがケンブリッジ時代に憶えた、性交という意味のスラングだった」
「ただの名前だよ。特別の意味があるからつけられたわけじゃない。響きが良くて面白かったから選ばれただけだ。なんとなくスローガンか何かの叫びみたいにも聞こえるからね」
~ニコラス・シャフナー著/今井幹晴訳「ピンク・フロイド 神秘」(宝島社)P148
何にせよ物事に意味などないのである。鷹揚であれ。
Personnel
David Gilmour (lead guitar, vocals)
Nick Mason (percussion)
Roger Waters (bass guitar, vocals)
Richard Wright (organ, piano, Mellotron, vocals)
50年を経ても彼らの音楽はまったく新しい。
ところで、モーツァルトのソナタヘ長調K.280第2楽章アダージョに触発され、ペルトが三重奏にアレンジした「モーツァルト—アダージョ」は、何て哀しくも幸せな響きを醸すのだろう。ピアノが原曲をなぞり、そこにヴァイオリンとチェロが新たな旋律を付加しつつあくまでアルヴォ・ペルトの世界を崇高に描写する。見事なコラボレーション。
嗚呼、もはや言葉がない。