シルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団第586回定期演奏会

トーヴェ役のレイチェル・ニコルズが出色。
しかし、彼女はもはや第3部には登場しない。その代わり、彼女の魂は永遠となり、合唱の叫びとして再生されるのだ。

それまでの西欧社会が築き上げてきたシステムの終焉を、僕は見た。男と女、愛と嫉妬、あるいは善悪、陰陽、果ては生と死。世界は相対するものででき上り、そのバランスの上に成り立っていることをあらためて知れとでも作曲家は言うのか。いかにも機能的に作られた道具(あるいはイディオム)を使っての音楽は、行き着くところまで行き、ついにはこれ以上ないという大管弦楽の大音響と合唱の絶唱を伴い、聴衆を圧倒した。天晴れだ。

アーノルト・シェーンベルクにとって「グレの歌」完成までは苦難の道だった。際限なく巨大化する音楽のクライマックスを書き上げるや、一旦筆を放棄し、彼は何年もそのままにしておいた。たぶん、たぶんだけれど、成す術を持たなかったのだろうと思う。しかし彼は、ついに新しい方法を獲得した。二元世界を超え、真の調和を目指したものが、すべての音を平等に扱うという、ただし難解な手段を使っての十二音技法という無調の世界であった。時間の隔たりがあるがゆえの世紀末後期浪漫の色彩と、限りなく無調に近づく革新の音が交差する不思議な音の熱狂にやはり僕は興奮した。素晴らしい一夜だった。

読売日本交響楽団第586回定期演奏会
2019年3月14日(木)19時開演
サントリーホール
ロバート・ディーン・スミス(ヴァルデマル、テノール)
レイチェル・ニコルズ(トーヴェ、ソプラノ)
クラウディア・マーンケ(森鳩、メゾソプラノ)
ディートリヒ・ヘンシェル(農夫・語り、バリトン)
ユルゲン・ザッヒャー(道化師クラウス、テノール)
小森谷巧(コンサートマスター)
新国立劇場合唱団
シルヴァン・カンブルラン指揮読売日本交響楽団
・シェーンベルク:グレの歌
—第1部
—第2部
休憩
—第3部

第1部最後、マーンケ扮する森鳩の、メゾの深遠な声に僕は震えた。また、短い第2部の「神よ何をなさったかご存じか?」は作品の中軸をなす(鏡面となる)重要なパートだが、残念ながら(少なくとも僕の席からは)ディーン・スミスの声量が弱く、管弦楽に飲み込まれるシーン多々で興醒め。

とはいえ、15分の休憩を挟み、後半第3部は手に汗握る最高の巻き返し。シェーンベルク畢生の大作の、怒涛の大音響が、熟練のオーケストレーションにより熱狂的に、見事に再現される様。聞きどころは、やはりヘンシェルの、先駆けたるシュプレヒシュティンメによる自然の描写だろう。ここには長い時間をかけて人類が失ってしまった謙虚さと、最も大切な愛と調和が投影されていた。続く、混声合唱の「見よ、太陽を!」の光輝!

見なさい、
地平線の彩り鮮やかな太陽を。
東方であなたたちに朝の夢が挨拶している。

オペラ対訳プロジェクト

今宵のサントリーホールは開演前からいつにない熱気に包まれていた。
終演後の怒涛の拍手喝采、そして、オーケストラがはけた後、指揮者が再登場からのいわゆる9年間のお礼を込めての一般参賀。
これにてカンブルラン勇退。
ありがとうございました。

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