洗練された疾走感。
大地を震わすリズムに、身も心も思わず反応する。
一聴、感性をくすぐる音楽がある。初めて聴いたとき、懐かしさとともに身体を揺らせてしまう音楽がある。文字通り音を楽しむ「喜び」だ。
・Brad Mehldau Trio:Seymour Reads The Constitution! (2018)
Personnel
Brad Mehldau (piano)
Larry Grenadier (bass)
Jeff Ballard (drums)
ブラッド・メルドー・トリオによるポール・マッカートニーの”Great Day”。まるでハービー・ハンコックが書いたような黒い律動なのだが、そこには不思議に白い、弾ける旋律が交じり合う。何という名編曲!どこまでも熱く、どこまでも慈悲深く、そして、どこまでも可憐な音楽。素晴らしい一日の終りに!
原曲は1997年に発表されたアルバム”Flaming Pie”のラスト・ナンバー。
短いながら、ポールの歌唱に込められた、咽ぶほどの想いのこもった歌。”It Won’t Be Long”というフレーズが繰り返されるサビは、奇しくもビートルズ時代のナンバーのタイトルにもなっていて、「素晴らしい一日」とは、最も勢いのあったあの頃のことを想起してのことなのか。アコースティック・ギターの響きには、かの”Yesterday”の木霊すら聴こえるのだ。何てアンニュイなバラード。
・Paul McCartney:Flaming Pie (1997)
アルバム全体を通して滋味溢れる佳曲揃い。僕は基本的にジェフ・リンが創り出すビートルズ・サウンド紛いの音に抵抗があるのだが、このアルバムはそれが良い方向に働いているようで、無駄な違和感を覚えないところが素晴らしい。地味だが素敵なこのアルバムから1曲を採用するメルドーのセンスの良さに脱帽だ。
ちなみに、メルドーの”Great Day”のパフォーマンスに、相似の響きを感じるのがキャノンボール・アダレイ・セクステットによるニューヨークはヴィレッジ・ヴァンガードでのライヴ”Gemini”!!これまた得も言われぬ開放感と、すこぶる軽快なリズム感を持つ音楽で、実演のその場にもしいたらば卒倒していたのではないかと思わせるほどのエネルギーとパワーを秘めるもの。
・The Cannonball Adderley Sextet in New York (1962.1.12&14Live)
Personnel
Julian “Cannonball” Adderley (alto sax)
Nat Adderley (cornett)
Yusef Lateef (tenor sax, flute, oboe)
Joe Zawinul (piano)
Sam Jones (bass)
Louis Hayes (drums)
熱気と陽気と、そして、ド迫力。手に汗握るアンサンブルの妙に僕は、思わず興奮を隠せない。
あるいはまた、メルドーは、ビーチ・ボーイズの”Friends”までもカバーする。
あの不滅のポップスが、原曲(カールとブライアンのリード・ヴォーカルが素敵)に遜色なく、しかもまるで新たに創造されたオリジナル曲であるかのように余裕とリラックス、その上に(特に終結に向けての)抜群の集中力をもって奏されるのだから堪らない。6月の来日公演が待ち遠しい。
・The Beach Boys:Friends (1968)
Personnel
Al Jardine
Bruce Johnston
Mike Love
Brian Wilson
Carl Wilson
Dennis Wilson
知る人ぞ知る、見事な完成度を誇る1968年のマスターピース。
“Pet Sounds”以降、低迷期に入るビーチ・ボーイズの諸作品にあって、実にアーティスティックで高貴な印象を醸すベスト・アルバム。既存の枠を脱却し切り、(マハリシの影響か)ほとんど解脱の境地にあるかのようなテイスト。当時の一般のファンがもはやついていけず、商業的には失敗に終わった理由が今となってはよくわかる。
しかし、現代にこそ必要な「マインドフルネス」が真にここにはあると僕は思う。