またまた「宇宿允人の世界」

bartok_5_alban_berg_quartett.jpg「宇宿允人の世界」。昨年初めて体験して以来、もう何度も池袋の東京芸術劇場に通った。一筋縄ではいかない偏屈指揮者だけに人後に落ちない名演を繰り広げる時もあれば、どこにも出せない惰演をさらけ出すこともままある孤高の音楽家。少なくとも1年半前に聴いたベートーヴェンの「田園」交響曲や年末の「展覧会の絵」、そして5月に聴いたアンコールのバーバーに関してはどこに出しても恥じることのない圧倒的な名演奏であったと僕は思う。
今日は夏休みということもあってか、不思議なほどほぼ満席状態で、若干遅く会場入りした我々は3階席の一番奥の席に陣取るしか方法がなかった。そんな状況でも、第1部のグリーグ、「ペール・ギュント」組曲はなかなかの演奏だったし、メイン・プログラムのショスタコーヴィチに至っては、下手をすると2年前にサントリー・ホールで聴いたバルシャイ&読響の実演を上回るのではないかと思うほどの出来であった。ともかく初演当時の聴衆が第3楽章の途中で涙にむせ、フィナーレの大団円で爆発的な喝采を浴びせたという事実を回想するかのような疑似体験ができたのではないか、と思わせるほど後半2楽章は極めつけの演奏であった。
宇宿氏自身も余程気分が良かったのか、終演後いつも以上に長々とマイクを持って語り、アンコールで披露されたJ.S.バッハのアリアは思わず涙が漏れそうなくらいの感動的な調べであった。

バルトーク:弦楽四重奏曲第5番
アルバン・ベルク四重奏団

ドミトリー・ショスタコーヴィチが交響曲第5番を書き上げた背景に、当時のスターリン政権による言論の統制、粛清の恐怖というものがある。オペラ「ムツェンスク郡のマクベス夫人」がプラウダ紙において名指しで批判され、当時初演の予定であった第4交響曲を闇に葬り、人民に受け容れられる「わかりやすい」交響曲を書くことを余儀なくされた。確かにショスタコーヴィチの第5交響曲はよくできている。それなりの演奏で聴けば、どんなものでも感動できるように書かれていることが奇跡である。

前述の第4交響曲が書き始められたほぼ同時期に生み出されたハンガリーの巨匠、ベラ・バルトークの第5四重奏曲。アルバン・ベルク四重奏団の先鋭的な表現によりこの不滅の傑作がより一層の輝きを放つ。たったの1ヶ月で創造されたこの名曲はバルトークの数ある名作の中でも隠れた(地味な?!)傑作であると僕は思う。

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