ぼくのオペラはありがたいことに、昨日上演されました。とてもいい出来だったので、その評判はママには伝えられないほどです。第一に劇場は大入り満員で、大勢の人が引き返さなくてはなりませんでした。ひとつのアリアが終わるごとに、いつも拍手と驚嘆のどよめきとマエストロ万歳の叫び声です。
(1775年1月14日付、モーツァルトからマリーア・アンナ宛)
~高橋英郎著「モーツァルトの手紙」(小学館)P146
世界には先天的に喜びしかないことをヴォルフガング・アマデウスは教えてくれる。しかも、後天的な個性というものにまた悲しみや苦悩が付随するのだということを彼は示してくれるのだ。
久しぶりにフリードリヒ・グルダのモーツァルトを聴いた。ザルツブルク時代、いまだティーンエイジャーのモーツァルトの筆には、後年の深みはない。しかし、そこには未来への希望が明らかにある。自身の創造力を縦横に駆使し、湯水のごとく湧き出づる才能に、彼は自身惚れ惚れしたことだろう。いずれのソナタも緩徐楽章の安寧、否、微かな悲哀の音調が素晴らしく、グルダの類稀なる繊細な表現力がさらに輪をかける。
1775年の初め頃、ミュンヘンで作曲された初期ソナタの魅力をグルダは大いに発掘する。
中でも素晴らしいのは、ソナタ変ホ長調K.282(189g)。第1楽章アダージョの、ゆったりとしたテンポで、情感豊かに、浪漫を表現する技量。第2楽章は、一音ずつ丁寧に語りかけるように奏される第1メヌエットと明朗な音調で前進する第2メヌエットの絶妙な対比が美しい。そして、低音部を強調した終楽章アレグロの爆発。一般的なソナタ形式とは順序の異なる冒険がここにはある。遊びの精神溢れるヴォルフガング・アマデウスの奇蹟の一つである。