パターネ指揮ベルリン放送響 グノー「マルガレーテ(ファウスト)」ハイライト(1973.9録音)を聴いて思ふ

シャルル・グノーの歌劇「ファウスト」。ドイツでは、ゲーテ畢生の大作と区別するために、あえて「マルガレーテ」と称されるのは、原作の第1部から、特にファウストとグレートヒェン(マルガレーテ)の恋愛悲劇に焦点を当てオペラ化されたもので、原作とは似ても似つかぬものだとの批判精神ゆえ。

錬金術、降霊術、あるいは壮大な宇宙論を繰り広げる部分が完全に落されている、勧善懲悪の大衆にわかりやすい、その物語進行は、グノーの洗練された美しいメロディの宝庫たる音楽と相まって、各国で人気の高いオペラの一つであろう。しかし、よく筋を確認してみると、単なる恋愛物語ではない。第1幕、ファウストのモノローグの、人間の心性を衝いたその言葉に、まずはっとさせられる。

だが神よ 私のために何ができるというのか?
私に返してくれるのか 愛を 若さを 信仰を?
呪われよ おお人間の快楽よ!
呪われよ この鎖よ
私を縛り付けている この地上に!

オペラ対訳プロジェクト

ここでファウストは、呪縛となる肉体を否定することで、人間の持つエゴを徹底的に弾劾する。しかし、そうとわかりつつも神を否定し、メフィストに魂を売ってしまうのが、また彼の弱点だ。求めて求めず、求めずして求めよという言葉こそ真理なり。

歌劇「マルガレーテ」ハイライトが素晴らしい。

・グノー:歌劇「マルガレーテ(ファウスト)」(ドイツ語歌唱)ハイライト
ニコライ・ゲッダ(ファウスト博士、テノール)
クルト・モル(メフィスト、バス)
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(ヴァレンティン、バリトン)
エッダ・モーザー(マルガレーテ、ソプラノ)
ウルスラ・グレーネヴォルト(ジーベル、メゾソプラノ)
RIAS室内合唱団
ジュゼッペ・パターネ指揮ベルリン放送交響楽団(1973.9録音)

ドイツ語歌唱が、不思議のゲーテの原作戯曲の崇高なニュアンスを伝えてくれるよう。グノーの清純な音楽までもが、堅牢な、いかにもドイツ風の響きに終始することが興味深い。

第3幕、ファウストとマルガレーテの愛の二重唱のとろけるような美しさ。

ファウスト:
おお愛の夜よ!・・・輝く空よ!・・・
おお優しい炎よ!・・・
静かな幸福よ
天国を注ぐのだ
私たち二つの魂に!
マルグリート:
私はあなたを愛したい あなたを大切にしたいのです!・・・
もう一度言ってください!
私はあなたのものです!・・・あなたに憧れています!・・・
私はあなたのために死んでもいい!・・・

~オペラ対訳プロジェクト

とはいえ、難しいことは抜きにして、ただグノーの音楽を楽しむのが、「マルガレーテ(ファウスト)」鑑賞の極意。終幕からは、メフィスト、マルガレーテ、ファウストの三重唱「早く、早く!」と天使たちの清らかな合唱(混声六部合唱)2曲が採用されているが、このあたりの壮大で崇高なシーンは、聴いていて間違いなく感動的。

救われた!
キリストはよみがえられた!
キリストは生まれ変わられた!
平和と幸福が
主の弟子たちにあれ!

キリストは生まれ変わられた!
キリストはよみがえられた!

オペラ対訳プロジェクト

なんと魅力的な!
どこかワーグナー的な響きを醸すのは、ドイツ語バージョンだからなのか。
それともワーグナーがグノーのオペラから多少なりとも影響を受けているのか。

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