サヴァリッシュ指揮バイエルン国立管 モーツァルト「コジ・ファン・トゥッテ」K.588(1978.2.25Live)を聴いて思ふ

正統な、ドイツ精神溢れる充実のモーツァルト!
音楽的には、アンサンブルひしめく、最晩年のモーツァルトの真骨頂。物語的にも、他愛もないストーリー展開の中に人間世界の「茶番」を見事に暴く、実は傑作。台本はダ・ポンテ渾身。

何より壮年のヴォルフガング・サヴァリッシュの棒が、序曲から閃光を放ち、集中力をもって第2幕の最後まで一切の弛緩なく「聴かせる」のだから堪らない。歌手陣の健闘あわせ、バイエルン国立歌劇場の隠れた名演奏、名舞台のひとつだろう。

貴族が圧倒的に多数を占めるウィーンの洗練された聴衆は、1786年以来、《フィガロ》によって侮辱を受け、《ドン・ジョヴァンニ》というこってりしすぎた料理を味わって以来、さらにモーツァルトの作曲仲間の強まる陰謀活動も原因となって、以前には長年にわたってほめそやしてきたこのピアノ協奏曲の作者を突然見捨ててしまった。そのため彼は1788年からその死まで、実生活では常に破滅の際に立っていた。かつての〈神童〉の慢性の金づまりと深まる社会的孤立はじわじわと影響を及ぼし、その結果モーツァルトの生命力はあんなにも早く涸れつきてしまったのだろう。
アッティラ・チャンバイ&ディートマル・ホラント編「名作オペラブックス9 モーツァルト コジ・ファン・トゥッテ」(音楽之友社)P205

モーツァルトにとって、自分の作品が売れるか売れないかはもちろん生きるか死ぬかの痛切な問題ではあったのだけれど、そもそも創造の力がそういう現実のことを上回り、もはやインスピレーションの発露のままに、いわば天に委ね、音楽を生み出すことが彼にとって一番の「仕事」だったのだろうと思う。

・モーツァルト:歌劇「コジ・ファン・トゥッテ」K.588
マーガレット・プライス(フィオルディリージ、ソプラノ)
ブリギッテ・ファスベンダー(ドラベッラ、ソプラノ)
ヴォルフガング・ブレンデル(グリエルモ、バリトン)
ペーター・シュライアー(フェルランド、テノール)
レリ・グリスト(デスピーナ、ソプラノ)
テオ・アダム(ドン・アルフォンゾ、バス)
バイエルン国立歌劇場合唱団
ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮バイエルン国立管弦楽団(1978.2.25Live)

例えば、第2幕第17景での、公証人に化けたデスピーナの鼻声での歌は、可憐なレリ・グリストの巧みさを表わすシーン。

みなさんに仕合せがありますように。
公証人ベッカヴィーヴィは
公証人の威厳をもって
いつものようにやって来ました。
ここにすべて規定通りの
法律に従った結婚誓約書が
出来ております。
まず咳払いをして、
それから席について、
はっきり読み上げましょう。

~同上書P179-181

フィナーレに向けて繰り広げられる多重唱アンサンブルを聴いていて思うのは、モーツァルトの精神がとことん行くところまで行き、現世的な「生活」という意味ではもはやどうでも良い境地に至っていたであろうこと。大団円はまさにサヴァリッシュの指揮がうねり、モーツァルトの音楽と見事に一体化する瞬間が多発する。モーツァルトの本懐、「コジ・ファン・トゥッテ」の真価、ここにあり。

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