スーク スメタナ四重奏団 モーツァルト五重奏曲K.593ほか(1983.6録音)を聴いて思ふ

日進月歩の録音技術の世界で、いかに革新的な音を生み出せるか、日々の闘いと、そういう挑戦の背中を押す会社の度量と、彼が活躍した時代は、すべてが大らかな風潮であったことがとてもよく理解できる。
録音エンジニア穴澤健明さんのデジタル録音開発にまつわるお話がとても興味深い。
「デノンを作った人—穴澤 健明さん」

穴澤さんは、最初のデジタル録音はそれにふさわしい繊細な演奏だったという理由から、スメタナ四重奏団に決めていたそうだ。

スメタナ四重奏団と言えば、まず注目されたのは暗譜演奏である。弦楽四重奏曲というのは室内楽の中では最も緻密な合奏力を必要とするもので、本当にお互いの呼吸を合わせるには楽譜に頼るより、目と目、心と心がお互いに通じ合わなければならない。それを楽譜を置かないことで世界に先立って実践したのが彼らだったのである。従って彼らはお互いの意見を納得がゆくまでぶつけ合い、その上で厳しい練習を積み重ねるからその合奏は毛ほどの隙もなく完璧である。しかもその厳しさの中に常に新鮮で人間的な心の温もりを感じさせるのも、また彼らの演奏の特徴である。“技術はいつも完璧に、でも心はいつもアマチュアのように・・・”というのがスメタナ四重奏団の不変のモットーであったのだ。
(結城亨)
COCO-70515ライナーノーツ

素敵だ。ともかく音が繊細で温かい。
モーツァルトが最も不調で、不作だったといわれる年の作品(しかし、そこには2曲の「プロシャ王四重奏曲」が含まれており、寡作の理由は経済的困窮もさることながら背景には墺土戦争による国土荒廃が大きな理由としてあったようだ)であるにもかかわらず、少なくともスークとスメタナ四重奏団による弦楽五重奏曲ニ長調K.593は、最晩年の深遠な魂の慟哭を刻印する心満たされる名演奏である。

モーツァルト:
・弦楽五重奏曲第1番変ロ長調K.174
・弦楽五重奏曲第5番ニ長調K.593
ヨゼフ・スーク(第1ヴィオラ)
スメタナ四重奏団
イルジー・ノヴァーク(ヴァイオリン)
ルボミール・コステツキー(ヴァイオリン)
ミラン・シュカンパ(ヴィオラ)
アントニン・コホウト(チェロ)(1983.6.4-12録音)

第1楽章序奏ラルゲットが意味深い。続く主部アレグロの力強さ(モーツァルトのこのときの精神は間違いなく健全だ)。また、第2楽章アダージョにおける光と翳の美しさ(絶妙なる転調!)。まさに最晩年の純粋無垢な透明感の萌芽。柔らかい好演、第3楽章メヌエット。白眉は、終楽章アレグロ!いかにも愉悦が前面に押し出される音調だが、アンサンブルの力量が問われ、音楽は簡潔ながら終始深く内省的だ。

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