ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィル ショスタコーヴィチ 交響曲第5番(1983.11.20Live)

かれこれ30年近く前のこと(おそらく1992年)。
テレビ放送でムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルによるショスタコーヴィチの交響曲第5番を観て、心底衝撃を受けた。テレビ放送の解説で黒田恭一さんの言葉にそれこそ期待が高まる中、襟を正される、謹厳実直で冷徹な演奏に僕は文字通り正座を強いられた。

時は1983年11月、ソ連はミンスク・フィルハーモニーホールでのコンサートの実況放送。
指揮者ムラヴィンスキーの登場からすでに会場には緊張感漂うようで、ある種異様な雰囲気の中で音楽が始まった。第1楽章モデラート冒頭から音楽は嘶いた。相変わらずの金管群の咆哮と猛烈な音圧、そしてオーケストラの緻密なアンサンブルに舌を巻いた。実演でなくともこれほどの興奮をもって聴く者を煽る演奏が他にあろうことか。
続く、第2楽章アレグレットの厳しさとユーモアの対比は、真面目に正面から音楽と対峙するムラヴィンスキーの技量。コンサートマスターによるヴァイオリン独奏がいかにも二枚舌的な表情を示し、興味深い。

美しいのは第3楽章ラルゴ。これほど濃密な憧憬と官能の歌は聴いたことがないくらい。弦楽器は泣き、管楽器は慄き、打楽器が地を這う。内燃する熱量も半端なく、指揮者がショスタコーヴィチの音楽に心から感応していることがわかる。

・ショスタコーヴィチ:交響曲第5番ニ短調作品47
エフゲニー・ムラヴィンスキー指揮レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団(1983.11.20Live)

そして、猛烈な終楽章アレグロ・ノン・トロッポは勝利の凱旋。最初から最後まで表情を崩さないムラヴィンスキーの無情なる表現の真骨頂(楽員の表情も終始険しい)。演奏を終え、ほっと安堵の表情を湛えながら、楽譜の扉を閉じる所作が何とも神々しい。

終演後の観客の熱狂的な喝采がまた観る者の興奮を呼ぶ。

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