ヴェーバージンケ マズア指揮ゲヴァントハウス管 ベートーヴェン ピアノ協奏曲ニ長調作品61a(1971.3録音)

1年などはあっという間に過ぎてしまう。
年齢を重ねれば、そのスピードは一層増すだろう。
昨年の今日も、一昨年の今日も、あるいは一昨々年の今日も、何の変哲もない、一切変わりのない日常があったが、不思議に今年は違う。刻々と時間は過ぎ行くけれど。

たまには音楽のない一日を過ごしてみようかとも思ったが、夜更けについ手が伸びた。
僕にとって音楽は他の何ものにも代え難い癒しだ。
何て素晴らしい一日の終わりよ。
何と美しい人々との交わりよ。

今年はベートーヴェン・イヤーである。楽聖がこの世に生を受けて、250年が経過する。
類い稀な創造活動を繰り返し、晩年はインド哲学に目覚め、(おそらく形而上下で)ミクロコスモスへの信仰とミクロコスモスへの信念を統合したルートヴィヒ。知られざる作品集から1枚を取り出して聴いた。おそらく生活のために、求められた仕事を律儀に引き受け、彼はひたすら音楽を生み出した。
知られざるベートーヴェン。

ベートーヴェン:
・ピアノ協奏曲ニ長調作品61a(原曲:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品61)(1807)
アマデウス・ヴェーバージンケ(ピアノ)
クルト・マズア指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(1971.3録音)
・ピアノ・ソナタ第9番ホ長調作品14-1(1798)
ディーター・ツェヒリン(ピアノ)
・弦楽四重奏曲ヘ長調(原曲:ピアノ・ソナタ第9番ホ長調作品14-1)(1801-02)
ズスケ四重奏団
カール・ズスケ(第1ヴァイオリン)
クラウス・ペータース(第2ヴァイオリン)
カール=ハインツ・ドムス(ヴィオラ)
マディアス・プフェンダー(チェロ)

ムツィオ・クレメンティの依頼により成ったピアノ協奏曲ニ長調。クルト・マズアの指揮で感動したのは、メンデルスゾーンの「聖パウロ」以来かも。
作為のないベートーヴェン。それでいて管弦楽パートに勢いがあり、エネルギーに満ちる。ヴェーバージンケのピアノ独奏も脱力の極みでとても柔らかい。そして、いかにも東ドイツの録音だといわんばかりのいぶし銀の完全な音。第1楽章アレグロ・マ・ノン・トロッポがことのほか美しい(何より作曲者自身による新しいカデンツァでのヴェーバージンケの渾身の歌)。

そして、ズスケ四重奏団による(数年前のピアノ・ソナタホ長調の編曲を乞われて成した)弦楽四重奏曲ヘ長調。当時、いよいよ人気作曲家の仲間入りを果たそうとしていたベートーヴェンの気概溢れる傑作が、4つの弦楽器で何と愛らしく奏されることか。

編曲ものに関してですが、あなたがそれをご自身で断られたのを心から喜んでいます。ピアノのものを弦楽器に移し変えようという自然に逆らった取組みは、すべてにおいて対立し合う楽器ですから、おそらくやめた方がよいと思います。私は確信していますが、モーツァルトだけが自分でピアノから他の楽器に移せるのであり、ハイドンも然りです。2人の大家に続きたいわけではありませんが、私はそのことを私のピアノ・ソナタにも主張します。というのはいくつかの個所全体がほとんど省略されたり変更されなければならないだけではなく、付け加えたりしなければならず、ここに問題の種があり、それを克服するには、自身が作曲者であるか、少なくとも同じ器用さや創意を持っていなければなりません。—私はひとつだけソナタを弦楽四重奏に変えましたが、なぜかと言えば非常に求められたからですが、私はよく分っています、そうやすやすと他人がまねができないと。
(1802年7月13日付、ブライトコップ&ヘルテル社宛)
大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築1」(春秋社)P217-218

統合と調和。我が56回目の誕生日の夜に知られざるベートーヴェン。

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