The Beatles “Abbey Road (Anniversary Edition)” (2019)

“The Long One”とタイトルされた試作エディット&ミックスを聴いて僕は唸った。この流れも実に素晴らしい。
何がどう転んでも完璧なアルバムだっただろうが、しかし、最終的に”Her Majesty”があの位置に置かれたのは天の采配だ。

〈ハー・マジェスティ〉が〈ミーン・ミスター・マスタード〉の最後のコードに乗せて、ステレオ音像の右側から聴こえてくる。その後、ポールの声とギターは左に移ろい、そこから〈ポリシーン・パン〉のコードがはじまる。2つの曲のアコースティック・ギター・パートを編集でつなげるために、〈ハー・マジェスティ〉の最後のコードは削除された。
UICY-79050ライナーノーツ(ケヴィン・ハウレット/奥田祐士翻訳)P14

試行錯誤があり、関係者各人がひとつになったときに生まれた20世紀の金字塔「アビー・ロード」。
50周年記念エディション2019ミックスは、見違えるような鮮烈な音響で僕の脳みそを刺激する。すべての音楽の原点だと言っても言い過ぎでない完成度。

「レット・イット・ビー」があまりにも悲惨なレコードだった(すばらしい曲が入っているとはいえ)から、ビートルズはもうこれでおしまいだと私は本気で思っていた。もう二度と彼らと仕事をすることもあるまいと。“こんな終わり方をするなんて実に残念だ”と思っていたんだよ。だからポールから電話がかかってきて、“またレコードを作るんだ―プロデュースしてくれないかな?”って言われた時は驚いた。
その時私は即座に、“我々の昔のやり方でやらせてもらえるなら”と答えた。“僕らもそのつもりだよ、そうしたいんだ”と彼は言った。“ジョンもかい?”—“うん。ほんとだよ”。それを聞いて私は答えた。“君たちが本当にそう望んでいるのならやろう。またみんなで集まろう”。とてもよくできたレコードだ。あれだけいいものになったのは、みんなこれで最後だと思っていたからではないかな。

~The Beatles アンソロジー(リットーミュージック)P337

ジョージ・マーティンの言葉は真に迫る。
すべてを動かしたのは、メンバー一人一人の内なる静けさだと僕は思う。それこそ真の背水の陣とでも言うのだろうか。
リリースから50年目にしてプロセスがより明白になった。あのアルバムの完全無欠は、関わる人たちの切磋琢磨があったがゆえ。B面のメドレーはポールのアイディアだったという。

半端なやつを全部一緒にしようっていうのは僕のアイディアだったと思う。でもそういうことを主張するのはちょっと控えているんだ。みんなのアイディアだってことでかまわないさ。とにかく、最終的には、僕らあれを全部メドレーにしようっていうアイディアを思いついて、B面をちょっとオペラっぽい構成にした―あれはすごくよかった、未完成のものを10曲か12曲、いい形で使えたんだからね。
~同上書P337

そうはいってもやっぱりポールは目立ちたい人なのだと思う。
類い稀な彼の才能は、ビートルズの存在にとって不可欠だった。

・The Beatles:Abbey Road (Anniversary Edition) (2019)

幾度聴いても感動を覚える”Golden Slumbers”以降のメドレーは、やっぱり”The End”が肝。

“ジ・エンド”にはギター・ソロが入ってる。ジョン、ジョージ、僕がそれぞれ1フレーズずつ弾いた。そういうのをやったのはあれが初めてだった。それでついにリンゴを口説き落として、ドラム・ソロをやらせることにしたんだ。彼はそれまで、絶対に嫌だって言い張ってたんだけどね。そしてクライマックス。“そして最後、受ける愛は与える愛と同じになる・・・”。
~同上書P337

リンゴ・スターのドラム・ソロがあっての”The End”である。
ジョン・レノンは言う。

まさに全宇宙的、哲学的な一行だね。
~同上書P337

まさに真理。

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