ウィーン・コンツェルトハウスのアルバン・ベルク四重奏団。
ライヴでの4人の音楽は何だかとても生々しく、そして温かい。
1806年のベートーヴェンの身辺は慌ただしかった。
渾身の大作「レオノーレ/フィデリオ」の戦争下における棚上げ、あるいはパトロンであるリヒノフスキー候との決別、秘書の交替など、様々な中、後にロマン・ロランが「傑作の森」と名付けたように、作品はより一層深化し、人後に落ちない名作が数多く誕生した。
目下は、3弦楽四重奏曲、1ピアノ・コンチェルトを契約します―お約束のシンフォニーはまだお渡しできません。さる高貴な方が私から得るからで、しかし私は半年後に出版する自由は確保しています。
(1806年11月18日付、ブライトコップ&ヘルテル宛書簡)
~大崎滋生著「ベートーヴェン像再構築2」(春秋社)P625
生活の糧を得ようとするベートーヴェンの息遣いまでもがリアルに聞こえてくる書簡を読むにつけ、楽聖の傑作たちを(ある意味)特別視せず、もっと人間臭く聴いてみても良いのでは、そういう姿勢で聴いてみると新たな発見があるのではないかとさえ思えた。
余所行きでない、また、決して近づき難くない、実に身近なベートーヴェン。
ラズモフスキー第2番は、第2楽章モルト・アダージョが出色。情感豊かな、清澄な安寧の音調は、少なくとも当時のベートーヴェンの心中は(いろいろあれど)心静かだったように思われる(あるいは、ざわつく心の鎮静を作曲に求めたか?)。第3楽章アレグレットに見られる、例のロシア民謡の旋律の喜びは、もちろん依頼者であるラズモフスキー候への敬意を込めたものだろうが、アルバン・ベルク四重奏団の演奏は、ほかのどの四重奏団のものより明朗で快活、歓喜の爆発がある。そして、その流れのまま奏される終楽章プレストは、音楽に勢いがあり、その頃のベートーヴェンの充実ぶりを示すようで、(幾度聴いても素晴らしい)名演奏だと思う(ライヴならではの多少の瑕がまたリアルに感動を喚起する。
おじゃまします。
ラズモフスキー弦楽四重奏曲は、その前の6曲とびっくりするほど変わっていて、当時の人がベートーヴェンは気が狂ったのでは?と訝しんだというのがわかる気がします。その中で、この2番は3曲の中で最も深みを感じる曲、特に2楽章は白眉ともいえる楽章だと思います。作曲家が「天体の運行をイメージし」て作曲したと言った、とどこかで読んだので、聴くたびに宇宙空間で惑星がゆるぎなく軌道を進んでいる光景が頭に浮かんでしまいます。
アルバン・ベルクの演奏は、スピードがあり、しかもなめらかで淀みなく、凄いテクニックとアンサンブルですね。演奏時間を他のカルテットと比べると、1楽章は2分30秒くらい、2楽章は1分30秒ほど速いようでした。これまでの天体運行イメージから脱却し、生き生きしたスピリットを感じ、新鮮でした!
>桜成 裕子 様
そうです、アルバン・ベルク四重奏団のラズモフスキー第2番は随分速いですよね。しかし、決して呼吸は浅くならず、その速さが実に心地良く感じます。「天体の運行をイメージした」というのは知りませんでしたが、そうだとするならABQの演奏は作曲者のイメージ通りでしょうか。貴重なご示唆ありがとうございます。