アルゲリッチ クレーメル バシュメット マイスキー ブラームス ピアノ四重奏曲第1番ほか(2002.2録音)

ベートーヴェンとブラームスの生涯の類似点については、何十年にもわたって指摘されてきた。辛い子供時代を過ごし、個人としておかしな振る舞いをし、一生を独身で通し、さらに音楽上の様式が幾分似ている。おそらく今や、新たな類似点が加えられるべきだ。神に対する、強固ながら慣習とは異なる信仰である。
P.カヴァノー著/吉田幸弘訳「大作曲家の信仰と音楽」(教文館)P173

ブラームスはプロテスタントではあったが、おそらく盲目的な信者ではなかった。彼は、ワーグナー同様、真の宗教、否、創造主への直截的な信仰には篤かったのだろうと僕は思う。

ブラームスは信仰者ではあったが、幾分非正統的な信者だったようだ。彼は神について真剣に語り、来世を固く信じていたが、まわりにある様々な教派のどの教理を選ぶべきか分からずにいた。この確信の欠如がもとで、純粋で敬虔な信仰の持ち主からは。時々誤って不信仰と受け取られた。友人のアントニン・ドヴォルジャークがその一人だ。
~同上書P174

特定の宗教宗派というものがすでに形骸化した、無意味なものであることをブラームスは心の、魂のどこかで悟っていたのだろうか。彼の残した音楽には、初期のものにも、あるいは晩年のものにも、筆舌に尽くし難い、敬虔な祈りが刻まれる。

一音漏らさず耳をそばだてて、心静かに音楽を聴いてみよ。

・ブラームス:ピアノ四重奏曲第1番ト短調作品25
・シューマン:幻想小曲集作品88
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
ミッシャ・マイスキー(チェロ)
ユーリ・バシュメット(ヴィオラ)(2002.2録音)

ヨハネス・ブラームスの名を一躍有名にした作品。
ウィーンでの最初のコンサートでこの曲を採り上げたとき、リハーサルに当たってヴァイオリニストのヨーゼフ・ヘルメスベルガーが、「ベートーヴェンの後継者ここにあり、だ!」と手放しの賞讃で迎えたという。

ブラームスの音楽は、実に個人的な印象を与える内省的なものが多いが、ト長調の四重奏曲にも、得も言われぬ寂寥感がつきまとう。友を求める心と、母を求める愛情と、しかし一方で、自身の内面を吐露することに対する恥ずかしさとでもいうのか、そんな個人的な感情がどの瞬間にも渦巻くのだ。

マルタ・アルゲリッチのピアノは冷たく寂しい(もちろん良い意味で)。
それに対して、ミッシャ・マイスキーのチェロは何て温かい、豊潤な音を醸すのか。
また、その間に入って中庸を取ろうとするギドン・クレーメルの先鋭的なヴァイオリンが、心なしか浮く。決して調和的な演奏とは言い難いけれど、ここの力量が優れ、各々がベストを尽くす様子が聴いてとれ、それによってブラームスの音楽の(ある意味)ほころびにも似た哀しみが余計に助長されるのだ。

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