カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィル ブラームス 交響曲第4番(1980.3録音)

まったく活動しなかった95年を経て、翌96年にミュンヘンに近いインゴルシュタットでバイエルン州立管弦楽団(バイエルン州立歌劇場管弦楽団)を振ったコンサートで、はっきりとカルロスの凋落を見せつけられてしまったのである。人間、肉体的な衰えは年齢と共に防ぎようがないし、70年代、80年代のアポロのように光り輝くカルロスを、ここに期待していたわけでは決してなかったけれども、暗澹とさせられたのは事実だ。この頃には、もう日本からの“カルロス追っかけ”も相当数に登ったが、この晩の出来具合については、誰も怖くて口に出来ない、そのような雰囲気だったのである。
山崎睦「カルロス・クライバー、生涯の足跡とゆかりの地を辿る」
「音楽現代」2007年3月号P68

伝説は伝説のままでそっとしておいた方が良い。
紙一重という言葉があるように、天才であったとしても人間である以上完全ではない。もはや醜態を晒したくない、聴衆の期待には応えられない、そのことは、本人が一番わかっていたのだと思う。

幸運にも僕は86年のバイエルン国立管弦楽団との来日公演に触れることができた。できたけれども、カルロスを観ることができたことに胸がいっぱいで、肝心の演奏の詳細までは正直今は記憶にあまり残っていない(残っているのは衝撃のみ)。ただ、池辺さんの「アポロのように光り輝く」とは言い得て妙。

・ブラームス:交響曲第4番ホ短調作品98
カルロス・クライバー指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1980.3.12-15録音)

時間があっという間に流れる。何という戦慄!!どの瞬間も瑞々しく、躍動的な、人類の至宝とも言うべき名演の一つ。第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ冒頭から思わず引き込まれ、終楽章パッサカリアの圧倒的音響に言葉がない。
とてつもない生命力。いかにこの頃のカルロスの気力が充実していたか。

ちなみに、リリース当時、池辺晋一郎さんがこの演奏を評して書かれた小論に次のような箇所がある。

すべてが矮小な「解釈」などということばと無縁で、端然としている。「解釈」と同様、「個性」などということばも、今使いたくないが、ぼくの言いかたが、没個性礼賛と受けとられてはやはり困るから、この、すべてが端然とした自然さこそが、超一流の個性と呼んで差しつかえないものであろう、ということを、あえてつけ加えておくことにする。
池辺晋一郎「クリーン アンド マイルド,カルロス・K・ブラームス」
~「レコード芸術」1981年4月号P227

そう、まるで何もしていないかのような「すべてが端然とした自然さ」という表現が、カルロス・クライバーのブラームスを言い当てている。

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8 COMMENTS

安倍賢一

岡本様

こんにちは。

このレコードはクライバーがミラノ・スカラ座と来日した1981年に発売され、
秋葉原の石丸電気で輸入盤を買って毎日聴いていました。

DGGのVPOブラ4は他にベーム、バーンスタイン、ジュリー二、レヴァインとありますが、
岡本様は誰の演奏が一番お好きですか?(お聴きになっていたらですが。)

私はこの中ではジュリーニです。

ところでこのクライバーの録音はホルンの定位が安定しないのにお気付きですか?
第二楽章冒頭は右側から聴こえるのですが、第三楽章4分59秒では左から聞こえます。
まさか4人の奏者が二人づつ左右に別れているはずもないですから、ミキシングが
原因と思われます。

私はどんな名演奏でもこんな出鱈目な録音は許せません。
因みにジュリーニ盤はまともです。

バランスエンジニアはクライバーがKuraus Scheibe、ジュリーニはHans-Peter-Schweigmannです。

ベーム、バーンスタイン、レヴァイン盤は手放してしまったので確認出来ませんでした。

VPOと言えば11月のサントリーホール公演のチケットを2日分持っているのですが、
本当に来日出来るのかと不安な毎日を過ごしております。

安倍 賢一

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岡本 浩和

>安倍賢一 様

リリース当時から僕も愛聴しておりまして、座右の音盤のひとつです。
挙げていただいたDGGのVPOブラ4は、ジュリーニ以外聴いております。
よりによってジュリーニは未聴です。中ではジュリーニだとおっしゃるのならこれは聴かねばということで、早速入手いたします。
ちなみに、ベーム、バーンスタイン、レヴァインと比較してもやはり僕はクライバーです。

ところで、ご指摘の「ホルンの定位」についてですが、僕の耳が悪いのか、はたまた装置が今ひとつなのか、何度聴いてもよくわからないというのが正直な感想です。
本録音に関しては、(おそらく)初期輸入盤DGG400 037-2(西独プレス)と逝去後すぐにリリースされたトリビュート盤”Tribute to a unique artist”DGG00289 477 5324(リマスターされていると思います、各楽章のタイミングが5秒から10秒違っています)の2種を所有しており、いずれにおいてもヘッドホンで集中して聴いてもよくわからないのです。
すいません(汗)。

>VPOと言えば11月のサントリーホール公演のチケットを2日分持っているのですが、

今年の来日はこの調子だと難しいかもしれませんね。

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安倍 賢一

岡本様

うーん、良くわからないと仰られますと返す言葉が見当たらないのですが・・・
前述したホルンは1例に過ぎず、第4楽章でも

⚫️トロンボーン:14変奏(コラール主題)(4分12秒)左奥なのが
 21変奏でのスフォルツァートで5回だと右(6分15秒)

⚫️22変奏曲:3連符 VcVa2Vn1Vnが推定配置だと中央やや右右左に聴こえるはずが、
       中央中央やや左やや左左に聴こえます。(6分26秒)

つまり、トロンボーンとヴィオラも「さまよえるオランダ人」状態です。(笑)

私は現在ブルーレイオーディオで聴いていますが、リマスターはされてもリミックスされたとの情報はありませんので、岡本様と違う音源で聴いてはいないと思います。

指摘した箇所でホルンは左右ではなく中央から聴こえますか?
もしそうであれば,
大変失礼ながら一度違う再生環境にて試聴されてみては如何でしょうか?

ジュリーニ盤は録音を含め私の好みですので、決してこれが最高と言っているわけでは
ございません。(汗)あくまでご参考程度にして下さい。

因みに他のブラ4の愛聴盤は、ライナー指揮ロイヤルフィル(1962年,Chesky)、
ボールト指揮ロンドンフィル(1972年,EMI)、スイトナー指揮ベルリンシュターツカペレ
(1986年、ドイツシャルプラッテン)です。あともちろんワルター=コロンビアも。

フルトヴェングラーは第1楽章コーダの猛烈な加速だけでもウンザリしてしまいます。
オケの響きが上滑りして折角のブラームが書いた緻密な書法が台無しです。

それにしてもとても良い曲ですね。かれこれ50年聴いていますが飽きず、私の大好きな交響曲です。

安倍 賢一

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岡本 浩和

>安倍賢一様

ご丁寧にありがとうございます。
おっしゃるように、どう聴いても左右ではなく、中央から聴こえる感じなのです。
再生装置を替えて聴いてみた上でまたご報告いたします。

ジュリーニ盤の件についてもありがとうございます。

僕はワルター指揮コロンビアはもちろんのこと、ヴァント指揮北ドイツ放送響のほか、クナッパーツブッシュ指揮ケルン放送響盤も好きです。それとフルトヴェングラーについては若き日の刷り込みのせいか、あの猛烈な加速が耳について離れず(良い意味で)、相変らず愛聴盤です(とはいえ最近はもはや滅多に聴きませんが)。あと、ザンデルリンク指揮ベルリン響、朝比奈隆の最後のツィクルスなんかも・・・、です。

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ざんぱ

こんばんは。

定位の問題、知りませんでした。手元にないので確認できないのですが、いい加減なミキシングなら、許せないですね。

この前、NHKでクライバーのブラ2を見たのですが、解説者が、ヴァイオリンのボウイングを前列後列で交差させるような指示をクライバーはしている、と、映像と交えて説明されていて、なるほどと思いました。

もしかしたら、クライバーはCDのミキシングにも指示を出していたのかも、ってこともあるかもしれません。でも、なんでそんな「さまよえる」ことをしたのかは・・・・もう天才にしか分からない音世界なのかもしれません。

どちらにせよ、我々視聴者は、「与えられたメディア」を「最終系」として判断するしかなく、あまり詮索しても結局仮説にすぎず、与えらたものを、ただ楽しむしかないのだと思ったりします。

私も、ブラ4はクライバーの演奏が一番好きですが、この盤について思っていたことは、第1楽章と第2楽章は、おそらく続けて演奏された「ライブ」に近いものだろうということです。第3楽章と第4楽章は、音の雰囲気が変わります。それは、安倍さんが言ってた「定位」ってこととも関係するのかもしれません。

第3楽章と第4楽章は、少し出来すぎていて、レコード用って感じであまり好きじゃないです。第1楽章の、もう少しで壊れてしまうような、危うくはかないライブ感のある演奏がとっても好きです。

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岡本 浩和

>ざんぱ様

クライバーがミキシングにも指示を出していたのかもという推論は「なるほど、あり得るかも!」とも思いました。しかし、(クレンペラーのブル8終楽章の大幅カットの問題も躁鬱病が影響しているだろうように)もしクライバーがそのような天才だけに許される横暴(?)をしでかしているなら、彼も(紙一重の)病気なのかもしれません(笑)。
まぁ、おっしゃるように与えられたメディアを受け入れて楽しむしかないということですよね(フルトヴェングラー指揮バイロイト祝祭管の有名な「第九」の録音を思いました)。

ちなみに、安倍さんのご指摘の、第1楽章&第2楽章の「ライヴ」に近いという意見は斬新で僕も膝を打ちました。

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安倍 賢一

岡本様

22変奏のところ記入したはずの矢印が消えてしまい、わかり辛くなってしまいました。

クライバーの推定配置は向かって左から1st Vn、2ndVn、Vc、Vaですから、
チェロからヴィオラ、第二ヴァイオリン、第一ヴァイオリンと移行する
タタタ/タタタ/タタタと続く三連符が中央、右、やや左、左の順番に聴こえるはずが、
中央、中央やや左寄り、やや左、左の順番に聴こえるので、右にいるはずのヴィオラが
チェロと第二ヴァイオリンの間に移動していると言うことです。

お持ちのディスクの内、朝比奈以外は全て聴いております。
ザンデルリンクはドレスデン盤も含て私も好きです。

岡本様はフルトヴェングラーがお好きなのをうっかり忘れて、投稿してしまいました。
御気分を害されたらお詫び申し上げます。
誰でも好きな演奏家を貶されたら嫌ですよね。
かく申す私も高校、大学生時代はフルトヴェングラーでないと夜も日も明けぬ
青春時代を送っておりました。

今は交響曲を味わう楽しみは、曲を構造物として作曲家がどのように設計して
いるのかを追跡する事になりましたので、細部が不明瞭でクレッシェンドとアッチェレランド
がワンパターンに組み合わさった演奏には興味が無くなってしまいました。

ざんぱ様

私も過程がどうであろうと最終的には発売を承認したアーティストの責任だと思います。
だとしますとこんな録音を承認したクライバーの才能を疑いたくなります。(笑)

ドイツグラモフォンは70年から80年代にかけて、マルチマイク過剰のサウンドステージ
を無視した録音が多いのですが、楽器の定位を完全に無視した音作りは問題ではないでしょうか。

前半の2楽章が「ライブ」に近い説は新鮮なご意見です。
ベルリンフィルとの海賊盤を聴いたことがありますが、もっと追い込んでいましたので、
これはやはりセッション録音だと私は思います。

定位の問題ですが、第4楽章でもホルンは12変奏(2分59秒)では右なのが、14変奏(4分12秒)
では中央と「彷徨って」いますので、収録日により配置を変えたとは思いません。

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岡本 浩和

>安倍 賢一 様

ありがとうございます。フルトヴェングラーは好きですが、熱は相当冷めておりますので、気分を害するどころか拍手喝采ものです(笑)。ありがとうございます。

齢を重ねて、様々な解釈に触れるにつれ、僕自身の心の器も大きくなり、また耳も肥えたせいか、どんなご意見でも「なるほど!」と膝を打てるようになりました。賛否両論あっての芸術作品なので、それがまた面白いのです。

クライバーのブラ4の録音にまつわるチェックに関してはいま一度お時間ください。
念入りに検討させていただきます。

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