FM放送から流れる弦楽五重奏曲ハ短調作品37-1第2楽章アンダンティーノ・コン・イノセンツァに初めて触れたとき、その旋律の美しさに僕は唸った。何と豊かで愛らしい主題であることか。
無条件の美しさ。
流麗な音の流れ、それはまさに清流の如くの潔さ。何より重心の低い、安定感が音楽に一層の喜びを与える。
6歳のモーツァルトがはじめてウィーンを訪れ、神童ぶりを披露した頃、ウィーンで人気を集めたことのあるチェロ奏者で作曲家のボッケリーニ。ついでパリで、そしてマドリードで宮廷音楽家などとして活躍したボッケリーニの作品は、18世紀のイギリスの音楽史家チャールズ・バーニーによって絶賛されている。
(美山良夫)
~COCO-73337ライナーノーツ
イタリア的陽気な情緒が全編を覆うが、時折見せる翳は、モーツァルトの明るさの中に秘められた陰翳に優るとも劣らない。多作家ルイジ・ボッケリーニの天才が凝縮された弦楽五重奏曲のいくつかを耳にすると、僕はいつどこでも感動でその場に釘付けになる。
未来の見えない、不穏な時代だからこそ、人々に喜びを与える音楽の力は大きい。数百年という時間と空間を超えて紡がれる「弦の音」は、見事に調和の音だ。これぞ大自然の法則。5つの弦楽器が深い呼吸と共に同期する。それは、ベルリン・フィルハーモニーという器の中で育ち、熟成された音楽家たちの強力な絆によって生み出された奇蹟のアンサンブルだといっても言い過ぎではない。
筆舌に尽くし難い音の感動。一人でも多くの方に聞いていただきたい1枚。