ドラティ指揮ロイヤル・フィル ベートーヴェン 交響曲第9番「合唱」(1975.7録音)

われらに不滅のシラーの歌をうたわしめよ。
小松雄一郎訳編「ベートーヴェン 音楽ノート」(岩波文庫)P107

質実剛健。僕のこの人に対するイメージはそうだ。
正直、大して思い入れはなかった。それでも、初めてCD化されたベートーヴェン全集を聴いたとき、正統なドイツ精神を継ぐ、実に心地良く、またエネルギー旺盛な演奏だと吃驚した。何よりオーケストラがよく鳴る。それぞ、アンタル・ドラティの真骨頂なのだろうと思った。

真夏の交響曲第9番。意外にもスケルツォ楽章の熱波に興奮を覚えた。第3楽章アダージョ・モルト・エ・カンタービレは美しい。そして、終楽章冒頭プレストの、抑制しながらの猪突猛進は潔し。繰り返し耳にすればするほど、何と囚われのない、心に沁みるベートーヴェンであることか。

・ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
キャロル・ファーリー(ソプラノ)
アルフレーダ・ホジソン(アルト)
スチュアート・バロウズ(テノール)
ノーマン・ベイリー(バス)
ブライトン・フェスティヴァル合唱団
アンタル・ドラティ指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団(1975.7.22-24録音)

交響曲第9番の醍醐味。終楽章コーダの、最後に弾ける合唱と、インテンポで進める微動さえしない管弦楽の雄叫びに僕はとても充実感を覚える。
ベートーヴェンの試行錯誤は、かくも美しく壮大な音楽を生み出したが、実際に音となったとき、今も昔も多くの人びとに感動を与えてきた。多少の脚色はあるのだろうが、シンドラー(まもなく不信が原因で決裂することになる)の初演に関する会話帖の報告には次のようにある。

私は生涯で今日ほどの、激烈ではあるけれど心からの拍手は聞いたことがありません。第2楽章は1度拍手で完全に中断されました。そして再演せよと。歓呼は帝室に対する以上でした。4回目には民衆は嵐のようでした。最後には万歳が叫ばれました。
~同上書P1060

師走の日本では、今年もまた各所で(「分断から統合」の象徴である)「第九」が鳴り響く。
コロナ禍にあってどこもかしこもどんなベートーヴェンが鳴り響いているのだろうか。

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