岡田博美 ヤブロンスキー指揮ロシア・フィル 早坂文雄 ピアノ協奏曲ほか(2005.4-5録音)

早坂文雄のピアノ協奏曲を聴いた。名曲だ。
僕はピンク・フロイドを空想した。たぶんそれは偶然なのだと思う。否、というより気のせいだろう。何か旋律が酷似しているとか、音調が同じだとか、決してそういうものではなく、僕の中で勝手に結びついた妄想なのだろう。

音楽に境界線はない。
日本的な要素を含む音楽に、先鋭的なロック音楽を感じるのだから、すべては地続きなのだ。

シド・バレットに捧げた”Shine on You Crazy Diamond”が眩しい。
あの、延々と、いつまで続くのかしらと思わされたイントロの深み、神秘。
そう、早坂文雄の音楽に僕が聴いたのは、病弱な、暗い神秘なんだ。

結論的に書けば、早坂文雄の音楽は音という媒体を通して夢見る音楽であり、清瀬保二は音楽を通してつねに醒めている、と謂える。〈日本〉については、清瀬保二は現実的状況のなかから〈日本〉というものを把えようとし、そこにある苦さがつきまとっているが、早坂文雄の場合は、イメージするところの〈日本〉はつねに古代的な相貌としてあり、それはついには汎東洋的な、つまり非西欧的な東洋圏にまで拡大されるのである。
「清瀬保二と早坂文雄」
立花隆「武満徹・音楽創造への旅」(文藝春秋)P78

武満徹の分析は非常に鋭い。
空想を軸に、アルカイックな音調が西欧を超え全世界に拡大される様。第1楽章レントが心に響く。一方、モーリス・ラヴェルを髣髴とさせる第2楽章ロンド。この、相反する2つの楽章が織り成す万華鏡に、僕の魂は疼く。

早坂文雄:
・ピアノ協奏曲(1948)
・左方の舞と右方の舞(1941)
・序曲ニ調(1939)
岡田博美(ピアノ)
ドミトリ・ヤブロンスキー指揮ロシア・フィルハーモニー管弦楽団(2005.4.29-5.5録音)

戦時中の、いかにも日本的な「左方の舞と右方の舞」という、国家発揚的舞踏の音楽は、武満徹の嫌った民族主義的側面をいかにも前面に押し出し、作曲から80年の時を経ても実に新しい。

ぼくは早坂さんとは一番話が合ったんですが、どうしても合わないところがあって、それはここのところなんです。早坂さんはもともと保田與重郎に傾倒していて、日本浪曼派の流れを汲む人なんです。それですぐ「天平の・・・」とか、日本的美学とか、永遠の時間性とか、民族の美とか、そういうことを言い出す人なんです。ぼくはそこは全然理解できないし、受けつけなかった。音楽そのものに関しては実によく話が一致するし、雅楽とか日本のいろんな伝統音楽をとてもよく勉強されていて教えられるところが多かったし、影響も受けたんですが、日本浪曼派は駄目でしたね。
~同上書P79

そして、いかにもわかりやすく、熱狂で聴く者を包み込む序曲ニ調の雄渾な響きに惚れ惚れする。早坂文雄の音楽は、楷書体の音楽だ。そして、そこにはナショナリズムが宿る。それゆえにか、聴いていて、不思議に日本人たる血が滾る。

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