
何というフランツ・リストの交響詩「前奏曲」!!
冒頭からありきたりの、実に平凡な演奏だと思わせるや、後半に入って、俄然クナッパーツブッシュ節が炸裂。あり得ないくらいに急遽テンポを落とし、リズム・パートを際立たせ、音楽に推進力を持たせるというよりむしろブレーキをかけつつ、作品の真髄に触れされるという仕掛け。降参だ。
一方、オットー・ニコライの歌劇「ウィンザーの陽気な女房たち」序曲の、予想以上に速めのテンポで一気に駆け抜ける方法にむしろ唖然。戦時中の同日のライヴ録音だが、いかにもライヴならではの即興性が垣間見ることができ、クナッパーツブッシュの音楽的才能の奔流を体験できるようで素晴らしい。
クナーが練習で私たちに言ったこと。
彼は曲を始めると、すぐに中断して言った。「皆さん、もう一度。」—このオーケストラには女性はほとんどいなかった—「練習番号A(アー)、ケツノアナのアーから。」
ベルリン・フィルハーモニーで似たような状況になったときはこう言った。「練習番号A、後ろのアソコのアーから。」そしてぶつぶつと呟いたという。「ベルリンじゃあ、上品にやらないとな。」
~フランツ・ブラウン著/野口剛夫編訳「クナッパーツブッシュの想い出」(芸術現代社)P166
リハーサル嫌いのクナッパーツブッシュが、ほとんどぶっつけ本番で成したえんそうであることがわかって面白い。
ウィーン・フィルとのワーグナーについても然り。幾分柔和な音を示すが、クナッパーツブッシュの方法はいつも通り。それにしてもベートーヴェンのイ長調交響曲の、せかせかした音楽はクナッパーツブッシュらしくない(テンポの伸縮も甚だしく、いかにも不自然。それでも第2楽章アレグレットの哀愁漂う解釈は浪漫の薫り豊かで興味深いけれど)。いや、むしろこの気分屋のような演奏設計こそがクナッパーツブッシュの独壇場か?1929年の電気録音ということもあり、時間の制限があったのだろうが、音楽が空回りして軽薄な印象が否めない。時代もあり、音響技術の問題もあり、ましてや仮に練習なしで臨んだレコーディングだとするならなおさら(資料としての価値は一級品だが)。