オランダの20世紀現代音楽というのは、気のせいかとても明るい。
たぶんそれは、僕の感性の能わるところに過ぎないのだろうけれど。
それに、とても親しみやすい。
しかし、残念ながら僕はオランダ王国を訪れたことがない。光と翳の混淆するある瞬間の風景を夢の中で想像するばかりだ。
《エマオの食事》に垣間見えるハンの才能は、弟子たちを描くのに用いた策略やキリストに扮した謎の人物にあるわけではない。むしろ、プレディウス、ハンネマの予想を視覚化し、ヨハネス・フェルメール・ファン・デルフトの「過渡期」をでっち上げたことにある。カラヴァッジョのダイナミックな構図を借りつつ、ハンは、各要素を単純化し、フェルメールの成熟期のオランダ室内画に一段とふさわしい穏やかさをつくり出したのだ。左側の明るい窓は—明るい四角の形をしているらしいが—、その後のどのフェルメール作品にも描かれるようになる窓を予告する。少ない色数は、本質的にフェルメールそのものである。キリストの着衣には、ほとんど混じりけのないウルトラマリン、クレオパの着衣には雌黄と鉛錫黄の混合色、女中のフードつきのチュニックにはバーント・アンバーとカーボン・ブラック、質素な木綿のテーブルクロスには鉛錫黄、その下の粗末なアンダー・クロスには—いかにもフェルメール風を装って—混じりけのないウルトラマリンがたっぷり塗られている。
～フランク・ウイン著／小林賴子・池田みゆき訳「私はフェルメール—20世紀最大の贋作事件—」（ランダムハウス講談社）P155
後にハン・ファン・メーヘレンは偽造を自白するが、専門家たちは一向に信じなかったという。贋作だろうが何だろうが、作品から醸される真実味は、ある意味、フェルメールを凌駕する。
裁判で、贋作を続けた理由を問われ、ハンは次のように答えた。
後の方の贋作で得た何百万ギルダーが、すでに稼いだ何百万ギルダーの上に積み重なったのです。金が欲しくてやったのではありません。金なんて悩みと悲惨の種になるだけです。
恵を描き続けたい一心で、やることをやったまでです。続ける決心をしました。贋作がつくりたいからではなく、見つけた技法をとことん使いたかっただけです。また使いたいと思ってます。とてもすばらしい技法なのです。しかし、自分の絵に古色をつけたり、それを古の画家の作品として世に問うたりは二度といたしません。
～同上書P270
ハンの内には間違いなく懺悔があった。「見つけた技法をとことん使いたかった」という魂の叫びが響く。創造行為で何であれ、大事なことは理に沿うことだ。
オランダ・フェスティヴァル50年のハイライトから「20世紀のオランダの作曲家の音楽」。
ルイ・アンドリーセンの短い作品を、フランス・ブリュッヘンがリコーダーを操り、縦横に奏する様子が美しい。
