ワルター指揮パリ音楽院管 ベルリオーズ 幻想交響曲作品14(1939.5録音)ほか

ディミトリ・ミトロプーロス宛の手紙では、ブルーノ・ワルターの音楽のあり方、その意志が強く表わされており、興味深い。音楽は別の何かとの抱き合わせではなく(ミトロプーロスがカーネギーホールで「アルプス交響曲」を演奏するにあたり大幕の上に標題を映写しようという計画を発表したこと)、あくまで音楽を音楽として純粋に舞台にかけるべきだと巨匠は言う。

音楽が感情に訴える力に際限はなく、一方その描写的能力は—控え目に言えば—いぜんとして疑わしいことは、私と同じく、きっと確信しておられましょう。もろもろの感情と気分を伝えるものとして、音楽は翼を持ち比類なく雄弁に語ります。しかし、それがリアルなものを描き出そうとするやいなや、その神性は失われます・・・音楽はびっこを引き吃るのです。—この低いほうの領域に下降するのがたしかに正当なときもあります—たとえば、目に見える舞台上の出来事に、伴奏を付けることが必要な折など。シュトラウスが『アルプス交響曲』を作曲したときは、題名の証明しておりますように、交響曲を書くのが彼の意図でした。氷河や滝などを「描く」誘惑に、たとえ負けたにしましても。具象的に描写する不気味な才能に自ら誘われて抗しがたくなると、彼は交響曲的音楽の限界を踏み越え、彼の演劇作品の方法をまったく別の平面に転用しました。しかし、作曲家が描き出すものにさらに説明を加え、かくして、この音楽が理解されるには、かような非音楽的補助手段を必要とする旨を認めることにより、彼の弱点—あるいはもっと悪く—絶対音楽の弱点をば、われわれはさらけ出すべきなのでしょうか?
(1947年10月28日付、ディミトリ・ミトロプーロス宛)
~ロッテ・ワルター・リント編/土田修代訳「ブルーノ・ワルターの手紙」(白水社)P297

聴衆の理解を促すための小細工など不要だと、ワルターは断言するのだ。
そして、「幻想交響曲」を引き合いに出し、次のように付記する。

私の確信によりますと、ご趣向を実現するならば、われわれの全演奏会の本質を歪めるような先例が、作られはせぬかと存じます。そして予想される結果をご一考願います。たとえばベルリオーズの『幻想交響曲』には、こんな標題が付くわけです、「アヘン中毒」、「二人の羊飼い」、「野卑な姿で恋人現われる」等々。
~同上書P297

ジャズなどポピュラー音楽を否定したワルターの保守的な側面が露わになった好い(?)例だと思う。

当然のことだが、ワルターの演奏は本質的なものであり、例えば彼がかつて録音した「幻想交響曲」を聴く限りにおいて、巨匠はあくまで純音楽的に再生しようと心掛けている様子がよくわかる。音楽はあくまで激しく、そして愉悦に溢れ、聴く者に想像を促しながら、情感を込めて、浪漫的に歌うのである。

・メンデルスゾーン:劇音楽「真夏の夜の夢」作品61から第7曲「夜想曲」(1925.2.11録音)
・ベルリオーズ:劇的物語「ファウストの劫罰」作品24,H111,第3部から「鬼火のメヌエット」(1924.12.5録音)
ブルーノ・ワルター指揮ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団
・ベルリオーズ:幻想交響曲作品14,H48(1939.5.19-20録音)
ブルーノ・ワルター指揮パリ音楽院管弦楽団
・コレッリ:合奏協奏曲ト短調作品6-8「クリスマス協奏曲」(1938.9.13録音)
ブルーノ・ワルター指揮ロンドン交響楽団
・ヘンデル:合奏協奏曲ロ短調作品6-12(1938.5.17録音)
ブルーノ・ワルター指揮パリ音楽院管弦楽団

(かつてあらえびすが絶賛した)戦前の名盤だった「幻想交響曲」は、当時としては画期的な録音だったのだろうと思うが、何よりワルターの柔和で浪漫的な一面と、壮絶で戦闘的な(?)両側面が見事に表現されたものだと思う(音質はそれなりだが鑑賞には十分値する)。

このうちワルターがパリの管絃団を指揮したレコードが、ビクターとコロムビアから現われたが、恐らくこの曲のレコード中の白眉だろう。ワルターの持つロマンティシズムと技巧の冴が、パリの練達な管絃団を得て、ベルリオーズの幻想を手際よく描いて居る。
~あらえびす「クラシック名盤楽聖物語」(河出書房新社)P136

個人的に素晴らしいと感じるのは、コレッリとヘンデル。
いかにもバロックからはかけ離れた近代オーケストラのための浪漫解釈だが、第二次大戦直前の、不穏な欧州の雰囲気を体現する、何とも悲哀漂いながらも人間の心を感化する美しい演奏に言葉がない(ワルターらしい温かい叙情性と自然で柔軟なテンポの変化にブルーノ・ワルターの慈悲の心を思う)。

フルトヴェングラー、クレンペラー、シューリヒトなど、昔の大家の演奏はいずれも同様の方法が基本となるが、それぞれ解釈が異なる。フルトヴェングラーは、主情的で煽動的なアプローチから湧き上がる生命力を引き出し、クレンペラーは堂々たる様式美を基本に揺るぎない厳粛な造形を築く。

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