ライリー バッファロー・ニューヨーク州立大学創造・演奏芸術センターのメンバー ライリー インC(1968.3録音)

参加しているおのおのの奏者は、1~53の断片を順番に(任意の回数繰り返して)奏し、すべての奏者が第53番目の楽譜に到達したのを待って、各自好きなタイミングで離脱せよという指示が最後に書かれている。
(間洋一)
SICC 1890ライナーノーツ

ザ・フーに影響を与え、おそらくマイク・オールドフィールドをも感化したであろうテリー・ライリー。いわゆるミニマル・ミュージックの音の洪水に身を任せれば、思考の鎧は溶け、そこには感覚が残るだろう。本能だけが、本性だけが音楽の芯をとらえられるのだと僕は思う。

これは《Cで》と呼ばれる曲です。全部で53のこれらのフレーズが示すのは、このCという調性における三和音のクラスターを守らなくてはという極度の強迫観念です。
「60年代の音楽」(1970年)
グレン・グールド、ジョン・P.L.ロバーツ/宮澤淳一訳「グレン・グールド発言集」(みすず書房)P297

グレン・グールドの観念は正しい。
そして、これは誰も指摘したことがないのではと思うのだが(いるか?)、(偶然か必然か)53というフレーズの数が悟りのプロセスを表わすということだ。グールドはこの作品を次のように分析する。

第一に、《Cで》は「おかしな」作品だと思います(わかりやすいユーモアがあるからと言うよりは、皮肉なコメントを引き出すという意味において、かもしれませんが)。というのは、これは時代のしるしだったのです。つまり、小話で楽しませる芸はソフト・ペダルで踏まれたように静かになり、代わりに、用いるメディアそのものから多くの発想を得た新種のスラップスティックな芸が急に現われたのです。
~同上書P297

グールドの言う「おかしな」は、原文では”funny”だが、今でこそ市民権を得たカテゴリーに属する作品であるものの、1970年当時は本当に風変わりな印象の、”slapstick”すなわちドタバタ喜劇のような音楽だったゆえに、だからこそグレン・グールドのハートをとらえたのだと僕は思う(グールドのセンスはやはり間違いない)。

《Cで》について言える第二の点は、マクルーハン主義者たちの好きな言葉を使うなら、「参加型」であることです。1950年代の厳格な音列作法は、この過去10年間に、すっかり評判を落としたわけではないにせよ、衰えました。やがて用いられなくなり、この10年間の終わりまでには、最も熱心な支持者たちからさえも、割り引いて受けとめられるようになりました。
~同上書P298

楽器についての指定はなく、演奏者の数も明確に決まっていない作品。こうあらねばならぬという単一的な指導では成り立たず、多角的な指導あってこそのミニマル・ミュージックなどのだとグールドは言うのである。その意味で、やはりこの作品は未来を切り開く音楽だった。

・テリー・ライリー:インC(1964)
テリー・ライリー(リーダー、サクソフォン)
バッファロー・ニューヨーク州立大学創造・演奏芸術センターのメンバー
マーガレット・ハッセル(パルス)
ローレンス・シンガー(オーボエ)
ダーレン・レイナード(バスーン)
ジョン・ハッセル(トランペット)
ジェリー・カークブライド(クラリネット)
デイヴィッド・ショスタク(フルート)
デイヴィッド・ローゼンブーム(ヴィオラ)
スチュワート・デンプスター(トロンボーン)
エドワード・バーナム(ヴィブラフォン)
ジャン・ウィリアムズ(マリンバフォン)(1968.3.27-28録音)

《Cで》について指摘するべき点の第三は、本当にC調で書かれていることです。かつてアルノルト・シェーンベルクが指摘したように、この調で書かれるべき音楽はまだたくさんあります。もちろんシェーンベルクは字義どおりの意味で言ったのではありません。十二音技法が呼び起こしたノスタルジアに浸りつつ、その優位ある立場から、調体系に基づく書法に対する寛容ぶりを示したのです。同時に、ライリー氏の作品のような単調かつ単色の音楽がかつての彼の念頭になかったのは確かです。それにしても、実際とはどんなずれがあるにせよ、予言がまがりなりにも成就してしまったのは皮肉です。
~同上書P298-299

大袈裟だけれど、どうしてこういうものを編み出すことができたのかと思えるほどの、単調な(しかし一方で複雑な)奇蹟の42分。無心に音の振動に身を委ねよと、否、ひたすら紡がれる音を追えば、いつの間にか無心になっているのだと言わんばかり。大宇宙の(人間の耳には聞こえない)音を拡大すればひょっとするとこういうものになるのではないのか。そんな気さえしてくる不思議な音調に言葉がない。

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