クーベリック指揮ベルリン・フィル ドヴォルザーク 交響曲第9番「新世界より」(1972.6録音)ほか

「新世界より」。ここにあるのは憧憬と郷愁。
束の間の喜びに人は寂しさを感じるもの。音楽そのものは楽観的な音調に包まれているが、音楽の内に潜む諦念を描き出す演奏こそがより的を射た演奏なのだろうと僕は思う。歓喜は悲哀の中にあってこそ歓喜なのである。

ドヴォルザークは、「もしアメリカをみなかったら、こうした交響曲を書くことはできなかっただろう」とのべたことがある。いいかえると、この曲には、いろいろな意味でのドヴォルザークのアメリカ体験が盛りこまれていて、それらがこの曲の特徴の大部分を形成しているのである。このような体験のなかで、音楽的にみてとくに重要なのは、人種差別のない音楽院にドヴォルザークが勤務したことだろう。こうしたことで、ドヴォルザークは、黒人やアメリカ・インディアンたちと不自然な感情なしに接触することができ、黒人霊歌をはじめとする黒人のメロディを好んで耳にすることになった。
作曲家別名曲解説ライブラリー6 ドヴォルザーク」(音楽之友社)P50-51

人は刺激を受け、反応する。持って生まれた才能が高ければ高いほど、その反応は人をより多く巻き込む。ドヴォルザークの、特にアメリカ時代の作品が大衆受けするのはそのためだろう(彼の音楽にはまた普遍的な慈愛がある)。逆に言うなら、その頃のドヴォルザークは心身ともに苦悩の中にあったのだと言える。

渡米直前に生み出された序曲3部作。中でも、乱痴気騒ぎのような様相で開始される序曲「謝肉祭」には、表層とは裏腹に僕には悲しみの音が聴こえる。特に展開部直前の木管群の対話の美しさには、この作品が当初「人生」と銘打たれていたことからわかるように悲喜交々あらゆる事象が垣間見える。

また、交響詩「のばと」は、インスピレーションを受けたバラードの物語が、人間の煩悩からの罪と良心の呵責が主題になっており、それを見事に音化するドヴォルザークの作曲能力に感動する。ただし、5部に分けられた全編を聴き通すのに多少の辛抱がいるのだけれど。

ドヴォルザーク:
・序曲「謝肉祭」作品92(1976.2録音)
・交響詩「のばと」作品110(1974.6録音)
ラファエル・クーベリック指揮バイエルン放送交響楽団
・交響曲第9番ホ短調作品95「新世界より」(1972.6録音)
ラファエル・クーベリック指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

「新世界より」が屈指の名演奏(ベルリン・フィルの精緻なアンサンブルと個々の奏者の演奏力能力の高さが窺える)。第1楽章アダージョ—アレグロ・モルトから終楽章アレグロ・コン・フォーコまで息もつかせぬ勢いで聴く者を巻き込んでいくのである。中でも、第2楽章ラルゴは絶品中の絶品。何という懐かしさ!!

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