ハーゲン四重奏団 モーツァルト ディヴェルティメントニ長調K.136(125a)(1990.3録音)ほか

安息のモーツァルト。
喜遊曲は、あくまで仕事と割り切った、大衆を楽しませるための作品だけれど、神童の手にかかると(単なる娯楽音楽でなく)得も言われぬ美しさと楽観(時に諦念?)に包まれる音楽と化す。それにしても、15歳の少年の作品とは決して思えない嫋やかさ。人生の酸いも甘いも経験しながら決して悲哀を表にすることなく、まるで悟ったかのような透明感。

僕は思わず感動する。
当時、ザルツブルク大司教との軋轢はすでにあったのかもしれない。あるいは、仕事漬けで、寝る間もないほどの忙しさに目も回るほどだったのだろうか。特に緩徐楽章における清澄で優雅な音調は、自身のストレスを避けんがための精神安定剤の如くで、実に安寧に富む。

ありがたいことに、ぼくは達者です。たくさんは書けません。第一に、何を書いていいか分からないから。第二に、あまり書いて指が痛いからです。
(1771年9月21日付、姉ナンネル宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(上)」(岩波文庫)P28

旅先のミラノからの手紙の最後には「もうザルツブルクには興味がない」とまでヴォルフガングは言い切っているのである(可哀そうに)。

モーツァルト:
・ディヴェルティメントニ長調K.136(125a)(1990.3録音)
・ディヴェルティメント変ロ長調K.137(125b) (1990.3録音)
・ディヴェルティメントヘ長調K.138(125c) (1990.3録音)
・弦楽四重奏曲第1番ト長調K.80(73f)「ローディ」(1990.3録音)
・弦楽四重奏曲第2番ニ長調K.155(134a)(1989.1録音)
・弦楽四重奏曲第3番ト長調K.156(134b) (1989.1録音)
ハーゲン四重奏団
ルーカス・ハーゲン(第1ヴァイオリン)
ライナー・シュミット(第2ヴァイオリン)
ヴェロニカ・ハーゲン(ヴィオラ)
クレメンス・ハーゲン(チェロ)

イタリア旅行の折(第1回及び第3回)に認められた弦楽四重奏曲たちの温かさ。初の四重奏曲となるト長調K.80の第1楽章はアダージョだ。もうこの楽章を耳にするだけでわずか14歳のモーツァルトのあまりの純真さ、無垢さに言葉がない。そして、「ミラノ四重奏曲」と称される一連の四重奏曲の第1番となるニ長調K.155の冒頭の明朗さ、また第2楽章アンダンテの優しさに僕は驚喜する。この作品が歌劇「ルーチョ・シッラ」の作曲の合間に、退屈だから書きつけたものだというのだから驚き。さらに、ト長調K.156第1楽章プレストの愉悦にもましてやはり第2楽章アダージョの深み。

若きハーゲン四重奏団の果敢な挑戦は、神童モーツァルトの音楽を丁寧に、また思念を込めて見事に描き出す。

もう14曲作らなければなりません。それで出来上がりです。もちろんテルツェットとデュエットを4曲と数えることができます。ぼくはとても沢山は書けません。なぜって、ぼくは何も知らないし、第二に、ぼくはぼくのオペラのことばっかり考えていて姉さんに言葉を書かずにアーリアをそっくり書いてしまいそうになるくらいで、自分が何を書いているのか分からないからです。
(1772年12月5日付、姉ナンネル宛)
~同上書P29

第3楽章テンポ・ディ・メヌエットが弾ける。


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