エレーヌ・グリモー ソル・ガベッタ デュオ ブラームス チェロ・ソナタ第1番ほか(2012.5録音)

想いのこもる音色。チェロの音は分厚くまた重い。
ブラームスは孤独だ。自己の内面を丁寧に見つめながら、一方訥々とした語り口調は、ブラームスその人が生きて僕たちに語りかけるようだ。また、ピアノの伴奏が、全般的に静かでありながら突然牙をむくかのように激しく唸る様は、ブラームスの鬱積した感情の大いなる爆発のようにも思われる。長尺の第1楽章アレグロ・ノン・トロッポ、内向的な旋律は、どこまでいって優しい。続く、第2楽章アレグレット・クワジ・メヌエットがエレーヌの先導によって弾ける。二人の呼吸はぴったりだ。そして、終楽章アレグロ―ピウ・プレストのいかにもブラームスという(特にピアノ!)堅牢な構成の中で飛翔する音楽の妙。終結に向かってチェロがうねり、ピアノが歌う(何という興奮!)。

エレーヌとソルにかかるとドビュッシーもなんと明確な輪郭を描くのだろう。そう、確固とした意志が感じられる音楽が現れる。第1楽章プロローグ(ラン)は、此岸の音楽だ。逆に第2楽章セレナーデ(モデレマン・タニメ)は彼岸の音楽。とはいえ、どちらが現実で、どちらが空想であるかは正直わからない。前2つの楽章を統合する終楽章(アニメ、レジェ・エ・ネルヴー)の民俗的な音調が、僕の魂を鼓舞する。ソルのチェロが跳ね、エレーヌのピアノは沈静する。何という美しい対比!

DUO
・シューマン:3つの幻想小曲集作品73(1849)
・ブラームス:チェロ・ソナタ第1番ホ短調作品38(1865)
・ドビュッシー:チェロ・ソナタニ短調(1915)
・ショスタコーヴィチ:チェロ・ソナタニ短調作品40(1934)
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
ソル・ガベッタ(チェロ)(2012.5.22-25録音)

ショスタコーヴィチの孤独もブラームス同様悲劇的だ。わずか1ヶ月ほどで作曲されたチェロ・ソナタ、第1楽章アレグロ・ノン・トロッポの哀惜。チェロとピアノの対話がなんだかとても悲しい。しかし、それは第2楽章アレグロのあくまで前奏に過ぎない。ここでのソルは感情を爆発させ、音楽を縦横に奏でる(それにしてもこんな音楽をいとも容易く生み出してしまうショスタコーヴィチの天才!)。続く、第3楽章ラルゴの暗澹たる鬱積の音塊は、体制への抵抗なのかどうなのか(二枚舌の天才の成せる業!)。さらに、終楽章アレグロの陽気な、流れるようなチェロと確信に溢れるピアノのぶつかりが何と心地良いことか!
いずれにせよ、いかにも男性的な音楽を女性デュオが表現するとこれほどにも柔和で朗々たる音楽になるのかと吃驚仰天。

ソル・ガベッタはかつてインタビューで影響を受けた音楽家について聞かれ、次のようなことを言っていた。

多くの場合偉大な音楽家を挙げますが、私の場合は、これまで師事してきた先生方たちだとずっと思っていました。でも、年齢を重ねるにつれやはり過去の偉大な指揮者やピアニストからいろいろなことを学びつつあります。音楽的な学びは様々なことからあり、何か一つに絞ることはできないし、ましてや影響を受けた音楽家を一人選ぶことはできません。

録音から10年を経て、ソルの音楽はどう変化したのだろうか?
実演に触れ、確かめたいところだ。

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