アマデウス四重奏団 ハイドン 弦楽四重奏曲ホ長調作品54-3 Hob.III:59(1972.9録音)ほか

アマデウス四重奏団の奏でる音楽はいつも温かい。

僕がはじめて彼らの実演に触れたのは、残念ながらペーター・シドロフ亡き後、アマデウス・アンサンブルとして澤和樹弦楽四重奏団のメンバーと協働したブラームスの弦楽六重奏曲を中心にしたプログラムで、会場はお茶の水のカザルスホールだった。
もう30年も前の話。2度聴いた彼らの演奏は、確かに素晴らしかったのだけれど、最高の感動を喚起するものではなかったように記憶する。

ヴィオラのシドロフが健在のときの、つまり全盛期の彼らの演奏は本当に素晴らしい。願わくば実演を聴きたかったけれど、僕にはその機会がなかった。

ヨーゼフ・ハイドンの四重奏曲を聴いた。
何よりエステルハージ家に雇われながらほぼ自律的に活動を行っていた頃のハイドンの作品は簡潔明快でありながら新しく、モーツァルトやベートーヴェンにも多大な影響を与えただろうことがよくわかる。

1780年代に入ると、ハイドンは、給与受給者として雇用者に当然の拘束はされていたけれども、音楽家としてはすでに半分は自立した存在となっていた、といってよいだろう。それを支えたのは、ロンドンとパリ、そしてウィーンの楽譜出版社であり、それを通じてその存在に驚喜していった、台頭する市民階級であった。ピアノ・トリオ、ピアノ・ソナタ、弦楽四重奏曲といった市民の家庭音楽を中心として、各地から作曲の注文が寄せられるようになった。
「作曲家別名曲解説ライブラリー26 ハイドン」(音楽之友社)P16-17

ハイドンは手堅く、そして世の中の時流にうまく乗った音楽家だったといえる。安定の弦楽四重奏曲は、エステルハージ家の楽団にいたヨハン・トストの委嘱による作品54から。

ハイドン:
・弦楽四重奏曲ト長調作品54-1 Hob.III:57(1971.10録音)
・弦楽四重奏曲ハ長調作品54-2 Hob.III:58(1971.10録音)
・弦楽四重奏曲ホ長調作品54-3 Hob.III:59(1972.9録音)
アマデウス四重奏団
ノーバート・ブレイニン(第1ヴァイオリン)
ジークムント・ニッセル(第2ヴァイオリン)
ペーター・シドロフ(ヴィオラ)
マーティン・ロヴェット(チェロ)

冒頭楽章の快活さ、そして緩徐楽章はどの曲も歌に満ち、爽やかだ。例えば、ハ長調作品54-2のアダージョですら、哀感よりも愉悦を喚起するのが(少なくとも僕にとっては)不思議なくらい。同様にホ長調作品54-3第2楽章ラルゴ・カンタービレも文字通りハイドンらしい歌に溢れ、心に沁みる。しなしながら、最高なるは前後をアダージョに挟まれたプレストの作品54-2の終楽章だろうか。ここでのアマデウス四重奏団は完全にハイドンの魂と同期する。

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