沼尻竜典指揮東京都響 橋本國彦 交響曲第1番ほか(2001.7録音)

人の心は実に脆い。
自分自身のユニークさをいかに潰さないか、人生とは自分自身との絶え間ない闘いだとアメリカの詩人エドワード・エスリン・カミングスは言ったけれど、世間の声、もはやプロパガンダとも言うべき世論に反した生き方ができなくなっている人がいかに多いことか。それは自分の心の声、直観に従えず、自分自身を信じることができないということだ。悲しい哉。

橋本國彦の生み出した諸曲は戦後まもなくはほとんど忘れられた存在になっていた。何しろ戦時中の大本営のプロパガンダを目的としたものであったことから、作品そのものがそういう目で語られることが多かったゆえ。皇紀2600年の祝典曲として作曲された交響曲第1番も然り。
しかし、この曲ほど日本人の心の機微を踏襲し、しかも西洋音楽の語法をきちんと取り入れ、いわば東西の折衷音楽として認識されるものはなかなかないように僕は思う。何より聴いていて何と心地良い音楽であることか。世界が戦争の坩堝にある時期の、世界を一つにしようとせんばかりの調和の幻想がここには刻まれている。それこそが橋本が望んだ思いであり、希望なのだ。

橋本國彦:
・交響曲第1番ニ調(1940)
・交響組曲「天女と漁夫」(1933)
沼尻竜典指揮東京都交響楽団(2001.7.24-26録音)

3つの楽章を通して終始浪漫溢れる音調に世界の平和を思う。
何より最後にすべてが一つになることを暗示する第3楽章「主題と変奏とフーガ」が僕の好み。壮大なる調べが素晴らしき哉。

https://youtu.be/_W–31PCw40

今日は立夏。窓外の風が実に心地良い。
橋本國彦の命日に。

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