Genesis “A Trick of the Tail” (1976) / “Wind & Wuthering” (1977)

(第五)奥儀讃歎云
そも〱、風姿花傳の條々、大方、外見の憚り、子孫の庭訓のため注すといへども、ただ望む所の本意とは、當世、この道の輩を見るに、藝の嗜みは疎かにて、非道のみ行じ、たま〱當藝に至る時も、ただ一夕の見證、一旦の名利に染みて、源を忘れて流れを失ふ事、道すでにる時節かと、これを歎くのみなり。しかれば、道を嗜み、藝を重んずる所、私なくば、などかその德を得ざらん。殊さら、この藝、その風を繼ぐといへども、自力より出づる振舞あれば、語にも及び難し。その風を得て、心より心に傳はる花なれば、風姿花傳と名附く。

世阿弥著/野上豊一郎・西尾実校訂「風姿花伝」(岩波文庫)P69

僕たちはつくづく時間の中に生きているのだと痛感する。

ピーター・ガブリエルがフロント・マンを務めた時期のジェネシスは、大英帝国貴族趣味の高踏派文学的ロック音楽を主としており、どこかどんよりした、仄暗い音調が美しかった。それと、当時はピーターの声色を変えた歌唱、あるいはステージ上の被り物含めた特異なパフォーマンスが売りで、そのシアトリカルな舞台は、ライヴでこそ(あるいは映像の中で)一層生きるものだった。

一方、ピーターが脱退し、その後スティーヴ・ハケットもグループを抜けた、フィル・コリンズをフロント・マンに抜擢した3人体制のジェネシスは、ポップで耳障りの良い佳曲を数多生み出し、世界的ヒットを連発した実に魅力的なバンドだった。

興味深いのは、ピーターが抜けた後、新しいヴォーカリストを立てず、苦肉の策でドラマーのフィルをヴォーカリストに据え、録音した1枚”A Trick of the Tail”、そして、方向性の違いからついにスティーヴまでもがバンドを抜けることになる直前に録音した1枚”Wind & Wuthering”の2枚が、彼らの劇的な変遷の中で燦然と輝いていることだ。
これらはジェネシスのある意味中庸の傑作群なのではなかろうかと今あらためて僕は思う。

アルバム”A Trick of the Tail”は、バンドの顔であったメンバーがいなくなった無力感と、逆にその状態から抜け出さんとするメンバーそれぞれの緊張感が見事に一つになった「超自然体」の音楽に満ちた逸品だ。他方、アルバム”Wind & Wuthering”は、ここぞとばかりにトニー・バンクスがイニシアチヴを握り(前作もそうか?)、プログレッシヴな雰囲気とポップな雰囲気の両方が醸成された、稀代のアルバムであり、大英帝国が誇る唯一無二の世界的バンドに変化する直前の、ほとんど「一番しぼり」のような無垢で完璧な姿が美しく刻印されている傑作だ。

幻想の渦に飲み込まれていく「エンタングルド」、バンクスのロマンティックな幻想世界に浸れる「マッド・マン・ムーン」、コリンズが切なく歌い上げ、抒情美がさざ波のように押し寄せる「リプルス」、ゲイブリエル時代には見られなかったダイナミックな展開がドラマティックに迫る「ロス・エンドス」、バンクス色の強いファンタジックな幻想に酔いしれる「ワン・フォー・ザ・ワイン」、ハケットの世界観と中世的な響きが美しい「ブラッド・オン・ザ・ルーフトップス」、バンクスのシンフォニックなキーボードが洪水のように押し寄せる「アフターグロウ」など彼らの美しくロマンティックな調べのつづれ織りに胸を打たれてしまう。
(祖父尼淳「幻惑のジェネシス・ファンタジー」)
文藝別冊KAWADE夢ムック「ジェネシス 眩惑のシンフォニック・ロック」(河出書房新社)P114

そう、二つのアルバムに通底する幻想世界の、宙に浮くような不思議体験を髣髴とさせる世界観に、前にも後にもなかった独自の世界を創出するその力量に偉大なる奇蹟を僕は見る。

・Genesis:Wind & Wuthering (1977)

Personnel
Phil Collins (vocals, drums, cymbals, percussion)
Steve Hackett (electric guitars, nylon classical guitar, 12 string guitar, kalimba, autoharp)
Mike Rutherford (4, 6, and 8 string bass guitars, electric and 12 string acoustic guitars, bass pedals)
Tony Banks (Steinway grand piano, ARP 2600 synthesizer, ARP Pro Soloist synthesizer, Hammond organ, Mellotron, Roland RS-202 string synthesizer, Fender Rhodes electric piano, 12 string guitar, backing vocals)

前作以上に高尚な、そして静けさに満ちる音楽世界に、聴けば聴くほど魅せられる。冒頭”Eleventh Earl of Mar”から終曲”Afterglow”まで一分の隙もない、聴けば聴くほどに味わい深い、完全無欠の演奏で、完璧無比なる音世界が表出していることに僕は拝跪する。

・Genesis:A Trick of the Tail (1976)

Personnel
Phil Collins (drums, percussion, lead and backing vocals)
Steve Hackett (electric guitar, 12-string guitars)
Mike Rutherford (bass guitar, bass pedals, 12-string guitar)
Tony Banks (pianos, synthesizers, Hammond organ, Mellotron, 12-string guitar, backing vocals)

フィルは成るようになれというやぶれかぶれの思いでリード・ヴォーカルを引き受けたのだろうか?ピーターの歌唱を限りなく模倣し、初めて聴いたときはほとんどピーターなのではと思ったくらい声色を似せて歌っていることにある意味感激したことを思い出す。ジェネシスの歴史は、バンドの変遷の歴史であり、成長の歴史だ。そこには「守破離」の精神がある。” A Trick of the Tail”でバンドが保持してきた要素を守り、いきなり次の” Wind & Wuthering”で破る彼らの勇気に拍手を送ろう(バンドの方向性の変化についていけなかったスティーヴは去ることになった)。冒頭”Dance on a Volcano”に一発ぶちのめされ、”Ripples”以降の抒情に感化される。終曲”Los Endos”でもはや僕は新生ジェネシスから僕は離れられなくなっていた。

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