フレーニ カレーラス カラヤン指揮ベルリン・フィル ヴェルディ 歌劇「ドン・カルロ」(抜粋)(1978.9録音)ほか

一昨年亡くなったミレッラ・フレーニはヴェルディやプッチーニを得意とした。
抜粋ながら彼女の歌を聴いて、何と伸びのある溌溂とした、同時に芯のある、深い声質なのだろうと感心した。もちろんそのことによって物語に箔がつく。そして、それを享受する者を、まるで物語の登場人物であるかのように錯覚させる力を持つ。これは驚異的なことだ。

カラヤンがベルリン・フィルを振って録音した歌劇「ドン・カルロ」では、フレーニはフランス王女エリザベッタ・ディ・ヴァロアを演じている。第1幕の、カレーラス扮するドン・カルロとの二重唱「お願いがあって参りました」のことさらの感情移入に歌が見事に映える。そして、長大な第4幕アリア「世の虚しさを知る神」の、様々な情感を時に烈しく、時に静謐に歌い上げる力量に舌を巻くのだ。

長大な歌の中で、ロドリーゴに代ってカルロの行く末を見守ると誓ったこと、故郷フランスへの望郷の念、この世では報われないカルロへの愛の虚しさなど複雑な胸中を歌い込んでいく。幅広い表現力の要求される至難な曲で、ともすればその長大さが冗長さに直結してしまいかねない。
(酒井章)
スタンダード・オペラ鑑賞ブック②「イタリア・オペラ(下)」(音楽之友社)P178

フレーニの歌唱もさることながら、特筆すべきはカラヤンの棒。何といううねり、何というパッション!

ヴェルディ:歌劇「ドン・カルロ」
・第1幕二重唱「お願いがあって参りました」
・第4幕アリア「世の虚しさを知る神」
ホセ・カレーラス(テノール)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1978.9録音)
プッチーニ:歌劇「修道女アンジェリカ」
・アンジェリカのアリア「母もなしに、ああ坊や、お前は死んだのね!」
フランコ・フェラリス指揮ローマ歌劇場管弦楽団(1964.8.8録音)
ヴェルディ:歌劇「アイーダ」
・第1幕シェーナ「勝ちて帰れ」
・第3幕アリア「ラダメス様がここに来られる!」
・第3幕ロマンツァ「おお、私の故郷よ」
・第3幕二重唱「まあ!お父さま!」
・第3幕二重唱「薫る森林を、爽やかな谷間を」
・第3幕二重唱「やっと、あなたに逢えた、愛しいアイーダ」
・第3幕アリア「新しい戦争への激しい熱望に燃えて」(ラダメス)
・第3幕二重唱「逃れるのです 人を寄せ付けないこの灼熱を・・・そこには・・人の踏み込まない森の中に・・」
・第3幕二重唱「だけど、おっしゃって、どの道で」
・第4幕シェーナ「死の運命の石が私の上に閉ざされた」
・第4幕二重唱「さようなら、大地」
ホセ・カレーラス(テノール)
アグネス・バルツァ(メゾソプラノ)
ピエロ・カプッチッリ(バリトン)
ルッジェーロ・ライモンディ(バス)
ジョゼ・ファン・ダム(バス)
カティア・リッチャレッリ(ソプラノ)
トーマス・モーザー(テノール)
ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団(1979.5.7-10&14-17録音)
ミレッラ・フレーニ(ソプラノ)

そして、イタリアのとある修道院を舞台にしたプッチーニ作「修道女アンジェリカ」においても、有名なアリア「母もなしに」が何と切なく、悲哀の念を込めて表現されることか。ここは当然プッチーニの音楽の素晴らしさがものを言うのだが。

さらに、盤石のスーパー(?)歌劇「アイーダ」での、特にフレーニのアイーダの激情とアムネリスを演じるバルツァの冷静な歌の対比が実に興味深い。バルツァの起用については非を唱える人も多々あるが、二元世界の対照的な歌唱という捉え方ができるならそれはそれでありだろう。抜粋ながら、個人的にはとても素晴らしい録音だと思う。

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