テープを継ぎはぎしていた時代からiPadで音楽を作る時代になるまで、私はいつも次に何が起きるのかに興味を抱いていた。
(ハービー・ハンコック)
革新的な作品は時代を超えて生きている。
ハービー・ハンコックのマイルス譲りの挑戦。
「いいか、おれのお袋はおれが交響曲から離れたことをまだ怒っている」と、両手を振り上げながら私は言った。「おれがクラシック音楽を止めてジャズに行ったら、周りから責められた。ジャズを離れてスペース・ミュージックをやり始めたら責められた。スペース・ミュージックからファンクに行ったら責められた。そしていま、ファンクから新しいサウンドに行こうとすると、またもや責められている」
「みんながおれのやることを気にしているけど、おれは自分のためにやってるんだ」と私は続けた。「おれがやるのは、やらなきゃいけないからだ。ファンがそれについてきてくれるなら嬉しいし、ついてこなくてもかまわない。おれはこれをやらなきゃいけないし、やりたいんだ」
~川嶋文丸訳「ハービー・ハンコック自伝 新しいジャズの可能性を追う旅」(DU BOOKS)P284
「自分がやりたいんだ」と言い切る本音がさすが。実際、新しいサウンドたる、スクラッチ・サウンドを採用した”Rockit”は爆発的に売れた。MTV黎明期にあって、その映像も世界を席巻した。
人々はいまもあのビデオに関して、目覚ましい映像作品に仕上がったことを私の功績だと見なし、褒め称えてくれる。しかし私はほとんど制作にかかわっていない。ただ、ゴドレイ&クレームに、そしてロボットを製作したアーティスト、ジム・ホワイティングに”イエス“と言っただけなのだ。それは私がジャズから学び、仏法を通じて磨き上げたやり方だった。マイルス・デイヴィスと演奏しているとき、彼はいつも私たちを信じてやりたいようにやらせ、私たちから独自の創造的な能力を引き出した。ゴドレイ&クレームにすべてを任せたことによって、私たち全員に恩恵がもたらされたのだ。
~同上書P289-290
いかにも信仰者ハンコックの他力本願的見解だと思う。
実際、ヒット曲”Rockit”を収録するアルバム”Future Shock”は文字通り今も新しい傑作だ。
・Herbie Hancock:Future Shock (1983)
Personnel
Herbie Hancock (piano, synthesizer, Fairlight CMI, keyboards)
Bill Laswell (electric bass)
D.S.T. (turntables, “FX”)
Pete Cosey (electric guitar)
Michael Beinhorn (keyboards)
Daniel Poncé (percussion)
Sly Dunbar (drums, percussion)
Dwight Jackson Jr. (lead vocals on “Future Shock”)
Lamar Wright (lead vocals on “Rough”)
Bernard Fowler, D.S.T., Roger Trilling, Nicky Skopelitis (backing vocals)
変化を嫌う人多々。
しかし、大自然が常に進歩、発展、向上するものなら、変化しないということは逆に退化するということだ。相対の世界においてそれは何と厳しいことだろう。もちろん人のために動くことは大切なことだ。しかし、何よりハンコックが言うように、自分がどうしたいかが最重要課題なのだと、久しぶりにこの傑作を聴いてあらためて思った。
“Earth Beat”など何と刺激的な音なのだろう。
あるいは、”Rough”の光輝よ。
いつまでも僕も挑戦することを忘れないでいたい。