あんな人を罰するなんて大間違いでした。不当な話です。彼が世の中の人に与えたものを考えるとね。彼は誰にも迷惑をかけていません。私は彼という人を良く知っていました。
(ジャック・ペルツァー)
~ユールン・ドフォルク著/城田修訳「改訂版 チェット・ベイカー その生涯と音楽」(現代図書)P88
1950年代後半、欧州滞在中のチェット・ベイカーは度重なる麻薬所持容疑による逮捕劇に蹂躙された。しかし、中にはいわゆる冤罪もたくさんあったようだ。
キャロル・ベイカーによると、警察も裁判官もあの衝撃的な報道に影響されたと思われる。報道が彼に関し唯一興味を持っている話題は、麻薬であった。新聞もチェットの音楽には触れず、ただ麻薬に関連づけた報道のみを行った。新聞はチェットが目を閉じピアノソロを聴いている写真を掲載し、チェットが音楽に集中している写真の説明に、“再び麻薬に耽る様子”のような説明を加えた。キャロルによると、チェットは報道の被害者であった。彼にそっぽを向いたのはゴシップ屋の新聞だけではなかった。ジャズ批評家達も彼に対する悪評で彼を攻めた。
~同上書P88
今も昔もマスコミの報道の捏造は変わることがない。
事の是非や真相があっという間に暴かれる現代と異なり、60年以上前の新聞などのメディアの掲載するニュースがすべてであった世界にあっては対象者、当事者の受ける人生を棒に振るような裁きは並大抵でない。
そんな中にあって、天才チェットの欧州での音楽活動は活発であり、実に華麗なものであった。
Personnel
Chet Baker (trumpet, vocals)
Mario Pezzotta (trombone)
Glauco Masetti (alto sax)
Gianni Basso (tenor sax)
Fausto Papetti (baritone sax)
Giulio Libano (piano, celesta, arrangement, conducting)
+ strings, harp, frenchhorn, flugelhorn, and others
虚ろなチェットのヴォーカルは時空を超える。
このアルバムは、冒頭に収録されるチェットの十八番”My Funny Valentine”から聴く者の心を揺さぶるだろう。
宙に浮きあがる妙なる優しさと、枯れた、儚い夢心地の歌は永遠だ。
そして、彼のトランペットや他のホーン群を支えるイタリアの、熱い、力のこもったストリングスも実に官能的で美しい。