
名指揮者の名演奏。
20世紀に残された歴史的演奏の貴重な記録を聴くにつけ、音楽が人々に与える影響の大きさを思う。もちろんそのとき、その場に居合わせることができた人は幸運だ。しかし、たとえ録音という媒介を通じてだとしても、時間と空間を超え、それを享受できる現代人はやっぱり幸せだと思う。
そもそも音楽にジャンルなどないのだとルチアーノ・ベリオは言ったけれど、常識や思い込みという枠を外せば、どんなもので楽しめるのだということを僕たちは知った方が良い。クラシック音楽は決して難解なものではなく、楽しみ方を知れば、その奥深さに誰もが感嘆するのではなかろうか。楽しむのに年齢は関係ない。もちろん目覚めるのに早いも遅いもないのだ。
オランダ・フェスティヴァル50年のハイライトから最後の1枚は、コンセルトヘボウ管弦楽団に客演した名指揮者たちのライヴ音源。活気に溢れる音楽と、それに呼応する聴衆の歓喜と喝采に、音楽がコミュニケーションだということを痛感する。芸術とはそれを鑑賞する相手あってのものなのである。
特筆すべきはモントゥーによる「ダフニスとクロエ」第3部の止めどなく溢れ出る生命力!
そしてまた、ベルガンサの歌うファリャの歌劇「はかなき人生」からのアリア2曲!
情熱の国スペインの、文字通り刹那的な生き方を何と肯定的に歌い切るテレサ・ベルガンサの歌の妙。
そして、シュヴァルツコップの歌うリヒャルト・シュトラウスの4つの最後の歌終曲の永遠!おそらくこのときの共演が翌年のEMIへの正規録音につながったのかどうなのか、コンセルトヘボウでのこのライヴ録音はスタジオのものより一層熱気を孕み、また諦念を感じさせる白鳥の歌。