メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管 ブラームス 交響曲第1番(1940.10.13Live)

手元のアナログ盤とは演奏月日が異なるのだが、久しぶりに聴いてみて一世一代の浪漫薫る名演に僕は感激した。後期ロマン派の音楽はこれくらい思い入れを表現し、遊びを入れた方が箔がつくというもの。相変わらずの弦楽器のポルタメント奏法に感応し、あるいはまた伸縮自在のテンポ設定に時に翻弄されるも、快哉を叫ぶ僕がある。

戦時中の疾風怒濤の空気感と、そんな状況下で安息を求める聴き手の乾いた心、魂を癒そうとする演奏者の力量と、そういうものが入り乱れつつ歴史の1頁を刻印する最美の録音にまた言葉を失う。やっぱり凄演だと思う。

・ブラームス:交響曲第1番ハ短調作品68
ヴィレム・メンゲルベルク指揮アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団(1940.10.13Live)

何より第2楽章アンダンテ・ソステヌートがあまりに粘り、そのおかげで音楽の表情が寂寥というより官能を誘発する姿に変貌しているのが面白いところ(ヴァイオリン独奏の上手さよ)。
速めの第3楽章ウン・ポコ・アレグレット・エ・グラツィオーソにおける金管の咆哮に痺れ、圧巻の終楽章(有名なかの主題などあまりの人工的なテンポの揺れに辟易するところだが、一回きりのライヴ演奏だととらえると、実に興味深い遊びであり、面白い)に僕はあらためて舌を巻く(コーダの凄まじさ!!)。

私たちはいまどこにいるのか。あれは何だろう? 私たちは夢に誘われてどこに流れついたのだろうか。薄暗がり、雨、泥濘、赤い炎に染められた暗い空、その下ではたえず轟く殷々たる砲声が湿気を含んだ空気を充たし、その中をつんざくように落下点で炸裂し、弾け跳び、粉砕し、炎上させる弾丸のひゅうひゅうという鋭い音がし、地獄のように荒々しく通りすぎていく唸りが行き交い、呻き声と叫喚、破れるように吹き鳴らされるラッパの音、次第に急調子になる太鼓の音がその中から聞こえてくる。・・・向うに森が見える。
トーマス・マン/高橋義孝訳「魔の山」(下巻)(新潮文庫)P783-784

まるでメンゲルベルクのブラームスのようだと僕は思った。ヴィレム・メンゲルベルク152回目の生誕日に。

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