ボザール・トリオ モーツァルト ディヴェルティメントK.254ほか(1967録音)

メナヘム・プレスラーの消息をとんと聴かなくなった。
昨年末に99歳を迎えたそうで、今年は何と生誕100年祭。
何年か前、来日公演の告知があり、楽しみに待っていたのだけれど、結局キャンセル。
僕にとっては2017年にサントリーホールで聴いたリサイタルが最後なのだが、それ以上に9年前に庄司差紗矢香とのデュオ・リサイタルでの伴奏、そしてアンコールでの絶美のショパン(独奏)が忘れられない。今一度あの感動をと思って臨んだリサイタルはなんだか少し残念な結果だったので、あらためて耳にして確認したいと思っているのだ。年齢的におそらくもはや実演で聴くことはできないだろう。

プレスラーの本拠は、ボザール・トリオであった。
若いときから、そのいぶし銀の解釈、演奏に定評があったと思うが、中でも僕は、地味ながら神髄を衝いたモーツァルトに感激する。

モーツァルトは愛らしい。そして、モーツァルトは儚い。
彼の創造した夢のような音楽を実に堅実に、しかし可憐に表現する様は見事としか言いようがない。

モーツァルト:
・ディヴェルティメント変ロ長調K.254
・ピアノ三重奏曲第3番ト長調K.496
ボザール・トリオ
メナヘム・プレスラー(ピアノ)
ダニエル・ギレ(ヴァイオリン)
バーナード・グリーンハウス(チェロ)(1967録音)

K.254は20歳のモーツァルトによる佳曲。

われらがこの世に生きておりますのは、たえず怠りなく学び、対話によって互いに啓発しあい、学問と芸術をやむことなく進歩せしめるよう努力せんがためでございます。いくたびか、ああ、いくたびか、さらに貴下のおそばにあって、きわめて尊敬する神父たる貴下と話し語ることを望んだことでしょう。私の住んでおりますこの国は、われわれを見すてて去った先人のほかにも、たとえなおきわめて有能な教授たち、わけてもすぐれた天分と学識と趣味とを有する作曲家はおりますにしても、音楽にとってはきわめて恵み少ない国でございます。劇場はと申せば、叙唱歌手の不足のため困却しております。楽員がおりません。そして今後も容易に得られないことでしょう。なぜと申しますに、この人たちは高給を望んでおりますが、気前のよさがわが国の病弊ではありません。目下私は室内楽と教会音楽を書くことを楽しみにしております。
(1776年9月4日付、在ボローニャ神父ジョヴァンニ・バッティスタ・マルティーニ宛)
柴田治三郎編訳「モーツァルトの手紙(上)」(岩波文庫)P40-41

モーツァルトの志の高さを思う。
明朗な第1楽章アレグロ・アッサイにはじまり、第2楽章アダージョの癒し。そして、終楽章ロンドー(テンポ・ディ・メヌエット)の喜び。故郷ザルツブルクでの抑圧的生活から解放され。この後彼は母と共に就職活動の旅に出る。

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