レコード針が折れた・・・(涙)

もう30年以上前になる。当時よく聴いていたアナログ・レコード。
グレン・グールドが1958年と1961年にそれぞれ録音したベートーヴェンの第1協奏曲とモーツァルトの第24番協奏曲のカップリング。それこそ擦り切れるくらい聴いた(本当に擦り切れていたら今や聴けないのだけれど・・・笑)代物だが、こちらも久しぶりに取り出して聴いてみた。真冬の酷寒の情景にぴったり合うようなグールドらしい冷徹な(?)表現かと思いきや、それはジャケット写真だけで、実に人間味のある、触れると暑くて溶けてしまいそうな見事な演奏が繰り広げられる。僕は彼のこの演奏でベートーヴェンの作品15を覚えたようなものだが、そういえば第1楽章のカデンツァが作曲者作のものでなく、グールド自作のものが使用されている点がこの音盤の貴重なところだということを、件の部分を聴いてあらためて思い出した。いかにもバッハのような半音階的で対位法的なこのカデンツァを聴くだけでも大いに価値のある1枚だと思う。
さて、B面のモーツァルトを聴こうと音盤を裏返し、針をレコードに載せようとした瞬間…、何と手が滑って・・・、レコード針が折れた・・・えーーっ(涙)。ありえない・・・ショック・・・。ベートーヴェンも再度聴きたかったのに・・・。
泣く泣く今夜はCDに切り替えることになったが、レコード針っていくらなんだろうとネットで調べてみた。どうやら僕の使用しているVictorQL-A7というプレーヤーのデフォルトのカートリッジのものは相場5000円ほど。これなら別のカートリッジに買い替えられないだろうかとリサーチ。なるほど、SHUREのHiFiモデルMM型M-97XEというのがamazonで¥7,900。あと、SHUREのM44Gだと針を買うより安い¥4,479だけど、少し金額を足してやっぱりHifiモデルの方かな・・・などと悩む。まぁ、少しばかり熟考した上で決めようと思っている。

・ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調作品15
ウラディミール・ゴルシュマン指揮コロンビア交響楽団(1958.4.29&30録音)
・モーツァルト:ピアノ協奏曲第24番ハ短調K.491
ワルター・ジュスキント指揮CBC交響楽団(1961.1.17録音)
グレン・グールド(ピアノ)

現在のCDではカップリングが異なっているので少々残念なのだが、実にこの組み合わせが素敵。曲調から言うとベートーヴェンがモーツァルトのようでモーツァルトがベートーヴェンであるかのような印象。ということはつまり、モーツァルトがある時期ベートーヴェン的革新性を獲得していたということだし、その意味ではベートーヴェンもモーツァルトの影響を(当たり前なのだけれど)確実に受けていたのだということがよく理解できる。

ところで、このアナログ・レコードのライナーノーツは「グールドの思い出」と題する朝比奈隆御大によるもの。ベートーヴェンの第1番が録音されたまさに1958年に聖チェチーリアにおいて初共演した時の模様(曲目はベートーヴェンの第2協奏曲)が具に書かれているが、それが実に興味深い。いかにもグールドらしいエキセントリックな行動がその場にいる大勢を驚かせた、というより不信一杯にさせたらしいのだが、その演奏を耳にするなり全員が一様にして感激、即座にその天才を認めたということ。

その夜の演奏会の聴衆も、翌朝の各新聞の批評も、驚嘆と、賞讃をかくそうとはしなかった。
私にとっても、オーケストラにとっても、快い緊張と、音楽的満足の30分だった。その前後、今日までに欧州各地で協演した、チェルカスキー、フォルデス又は、ニキタ・マガロフのような高名な大ピアニスト達とは全く異質の、別の世界に住むこの若い独奏者の印象は、私にとってもまことに強烈だった。私がチャイコフスキーの「悲愴」を指揮している間、客席に坐っていて、楽屋へ戻った彼が、「すっかり眠ってしまって、すみません」というのに、「君に望むのは唯健康、ねむる事、充分な食事、それ丈です」といって肩を抱いて別れてから20数年、既に不惑の芸術家に成長しているであろう彼の近況をきくのは、私にとって本当に楽しみである。
~CBSソニー18AC-965ライナーノーツ


4 COMMENTS

畑山千恵子

マーク・キングウェル「グレン・グールド」の出版は、未知谷出版へ連絡して、原稿を完成させて、送ることになりました。ただ、出版を断られる可能性もあります。
昨年出たマイケル・クラークソン「グレン・グールド シークレットライフ」ついて、訳者、岩田佳代子さんは音楽は全くの素人で、悪訳、おかしな訳、誤訳、原書の読み落しが続出しています。新版は「グレン・グールド 天才の愛と孤独 天才の愛は何だったか」というタイトルで作成しています。著作権の関係で、時期を見ての出版になります。あまりにもひどいもので、びっくりしています。

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岡本 浩和

>畑山千恵子様
こんにちは。
グレン・グールドに関する翻訳本、無事出版されることをお祈りしております。
ご紹介のクラークソン氏の著作は未読ですが、そうなんですね。
こちらも出版される際はぜひお声かけください。
ありがとうございます。

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雅之

こんばんは。

グールドは、ピアニストとしてだけではなく、指揮者、作曲家、編曲家としても大変な才能がありましたよね。いい録音をいくつも残しており、私も大好きなものばかりです。

星条旗よ永遠なれ~ブラス&パーカッションの饗宴
http://www.amazon.co.jp/%E6%98%9F%E6%9D%A1%E6%97%97%E3%82%88%E6%B0%B8%E9%81%A0%E3%81%AA%E3%82%8C~%E3%83%96%E3%83%A9%E3%82%B9-%E3%83%91%E3%83%BC%E3%82%AB%E3%83%83%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%81%AE%E9%A5%97%E5%AE%B4-%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89-%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3/dp/B0007N36PG/ref=sr_1_2?s=music&ie=UTF8&qid=1326369014&sr=1-2

ビゼー:歌劇「カルメン」(オーケストラ版)(グールド編)
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%93%E3%82%BC%E3%83%BC-%E6%AD%8C%E5%8A%87%E3%80%8C%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%80%8D-%E3%82%AA%E3%83%BC%E3%82%B1%E3%82%B9%E3%83%88%E3%83%A9%E7%89%88-%E3%82%B0%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89-%E3%83%A2%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%B3/dp/B00006RTOL/ref=sr_1_8?s=music&ie=UTF8&qid=1326368563&sr=1-8

こういう一面がグールドにはあることも、忘れるべきではありませんね(笑)。

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岡本 浩和

>雅之様
こんばんは。
一瞬驚きましたが・・・、グールドさんはたくさんいますからね(笑)。
しかし、カルメンのオーケストラ版というのは聴いてみたいものです。
ありがとうございます。

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