ニルソン ボクステット指揮ウィーン国立歌劇場管 グリーグ 「春」ほか(1965.4録音)

デッカ不滅の金字塔「指環」の録音セッション後のビルギット・ニルソンの回想。

スタジオでのきつい仕事の翌日、何人かの歌手やショルティを頭にオーケストラ団員たちが、録音がおこなわれたソフィーエンザールと同じ建物内にあるデッカ・ボーイズの宿泊所に集うことがあった。録音がうまくいった日にはシャンパンが抜かれ、雰囲気が和むと、陽気な冗談がひっきりなしに飛び交った。エリック・スミスは、若々しく感じがよく、有名な指揮者ハンス・シュミット-イッセルシュテットの息子で、のちにプロデューサーとして私のレコードを数多く手がけることになった。プロデューサーのクリストファー・レーバーンとは、このほかに《トスカ》を収録、同時にベッティル・ボクステットの指揮でアリア集や北欧リート集も吹きこんだが、これは私が一番好きなレコードである。数年前、レーバーンが60歳になったお祝いに、私はびっくりゲストとしてデッカの招きで出席したのだが、彼は本当に驚き、大感激していた。録音のときの仲間は永久に思い出として残る。
ビルギット・ニルソン/市原和子訳「ビルギット・ニルソン オペラに捧げた生涯」(春秋社)P434-435

世界に名演奏の名録音は多い。
当の本人が思い入れのある、一番好きだというアルバムが悪かろうはずがない。ニルソン渾身の、いわば思い出の故郷の佳作たちが、喜びに溢れ、心を込めて歌われる様子が僕たちの感性を刺激する。

Songs from the Land of the Midnight Sun(1965.4.8-12録音)
シベリウス:
・5つの歌作品37(1900-02)から第4曲「それは夢か?」
・5つの歌作品37(1900-02)から第5曲「逢引きから戻った娘」
・6つの歌作品36(1899)から第1曲「黒いバラ」
・6つの歌作品36(1899)から第4曲「葦よ、そよげ」
・6つの歌作品36(1899)から第6曲「3月の雪の上のダイヤモンド」
・5つの歌作品38(1903-04)から第1曲「秋の夕べ」
・7つの歌作品13(1891-92)第4曲「春は飛ぶごとく足早に」
グリーグ:
・6つの詩作品25(1876)から第2曲「白鳥」
・ロマンス集(古いのと、新しいのと)作品39(1869-84)から第1曲「モンテ・ピンチョから」
・12のメロディ(1873-80)から第2曲「春」
ラングストレム:
・5つの詩(1917)から第3曲「メロディ」
・「暗い花」(1924)から第2曲「夜への祈り」
・アマゾネス(1941)
・昔のダンスのリズム(1915)
ボーナス・トラック
・アダン:さやかに星はきらめき(1847)(1963.8.3録音)
・グノー/J.S.バッハ:アヴェ・マリア(1859)(1963.8.3録音)
・フランク:天使の糧(パニス・アンジェリクス)(1872)(1963.8.3録音)
・グルーバー:きよしこの夜(1818)(1963.8.3録音)
・ロウ/ラーナー:ミュージカル「マイ・フェア・レディ」から「踊りあかそう」(1960録音)
ビルギット・ニルソン(ソプラノ)
ベッティル・ボクステット指揮ウィーン国立歌劇場管弦楽団
アーケ・レヴェン(オルガン)

エドヴァルト・グリーグは1843年6月15日、ノルウェーのベルゲンで生まれた(今日は180回目の生誕日ということになる)。グリーグの音楽はいずれもが哀愁を伴なうものだが、アアスマンド・オラスソン・ヴィニエ(1818-70)の詩に音楽を付けた「春」の美しさ、またニルソンの豊かな情感伴なう圧倒的な歌唱に心が震える。

もういちど奇跡が起こって、幸福が私に与えられた。春の喜びのすべてをこの世で見ようとは!
「作曲家別 名曲解説 ライブラリー⑱ 北欧の巨匠 グリーグ ニールセン シベリウス」(音楽之友社)P93

本来は冬には冬の喜びがあるもの。とはいえ、相対世界においてやはり春の訪れの喜びは他のどんなものより一層大きい。あるいは、ヘンリク・イプセンの詩に曲を付した「白鳥」の静けさの中にある、ニルソンの真に迫る歌唱の研ぎ澄まされた透明感。そして、1869年のローマ訪問の感激を表した「モンテ・ピンチョより」は、ピンチョ丘からの夕暮れの感慨を歌ったものだが、大自然の大らかさがこれほどまで直接的に表現された例があろうかと思うほど懐が深い。ビルギット・ニルソンの絶唱が光る。「白夜の国々」からの歌曲たちはすべてが優しく、また鋭い。

ちなみに、5曲のボーナス・トラックはいずれもニルソンの女性的な面が表立った名唱といえる。

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