クリュイタンス指揮ベルリン・フィル ベートーヴェン 交響曲第7番ほか(1960.3録音)

この何とも言えない、微動だにしない、どっしりとした表現が今の僕にはしっくりくる。
慌てず、急がず、そして騒がず、音楽はいかにも純ドイツ風という印象で、これがまさかアンドレ・クリュイタンスの指揮だとは、知らずに聴いたら誰も思わないのではなかろうか。

かつて吉田秀和さんはこの録音について好評価を下さなかったけれど、音楽などというものは客観的な評価を下せるものではなく、結局のところすべて主観による好き嫌いが原点にあるだろうゆえ、それはそれで良いと思う。少なくともたった今、僕にとって60余年前のこの録音がとても良い音で、心に迫る勢いで鳴っているという事実がすべてだ。

私は、クリュイタンスがベルリン・フィルを指揮したベートーヴェンの『第七交響曲』をきく。実に整った演奏である。だが、ちっともおもしろくない。それに、これは最後まで、きき終わらないうちにわかってきたことだが、この演奏の最大の弱点は、ダイナミックのうえでの変化、つまり強くなったり弱くなったりすることと、テンポのうえでの動き、つまり速くなったりおそくなったりすることとの間に、何のつながりもない点にあるのである。
「吉田秀和全集5 指揮者について」(白水社)P57

確かに吉田さんの指摘通りの演奏であり、人というもの、この、インテンポの堂々たる音楽が欲しいときもある。もちろんフルトヴェングラーの奇蹟の録音のようにデュナーミクとアゴーギクを駆使し、まるで人間の呼吸と同期するような、心拍数の上がる超絶名演奏に浸りたいときもあろう。どんな表現にせよここにはベートーヴェンの精神が横溢している。

ベートーヴェン:
・交響曲第7番イ長調作品92
・劇音楽「エグモント」作品84 序曲
アンドレ・クリュイタンス指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(1960.3.10&14録音)

しかしそれよりも一層素晴らしいのは「エグモント」序曲だ。
ゲーテによる、独立のために戦ったオランダの英雄エグモントの物語。素直さと誠実さがかえって悲劇を招く、そういう宿命、運命を受け入れざるを得ないエグモントの壮絶なドラマにベートーヴェンは感化されたのだろうか、その音楽は実に勢いがあり、特に今では「エグモント」といえば序曲を指すくらい有名になった序曲はクリュイタンスの棒の下、実に有機的で、開放的な(戦闘的な)音楽として僕たちの脳天を刺激する(大袈裟だけれど)。

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