レイフェルクス スキヒン ムソルグスキー 歌曲集「死の歌と踊り」ほか(1993録音)

たった一人の旅を意味するのが「死」だという説がある。
確かにそれは、誰も代わることのできない、一度きりの体験だ。

古今の芸術家は、多く「死」というものをモチーフにした。いかに抽象化して、その恐怖を緩和させるかが永遠の課題であるかのように。

死には官能、すなわちエロスがつきものだ。
愛は神であり、また真理であるが、果たして死もそうだというのか。
たぶん間違いない。
愛は生だ。そして、生はまた死と表裏だ。
生も死も、人間が勝手に都合良く創造した概念に過ぎない。
それならば、死は決して恐れるものではないのだろう。

セルゲイ・レイフェルクスのムソルグスキー歌曲集から「死の歌と踊り」。
バリトンの声量と伸びと深み、そして何より言霊の美しさ。
第1曲「子守歌」は、幼な児の死に対する悲しみを歌う内容だが、レイフェルクスの鬼気迫る慟哭の表情が素晴らしい。また、第2曲「セレナード」は、死神が若い娘を誘うという物語だが、優しい不思議な透明感がかえって恐ろしさを煽る。そして、第3曲「トレパーク」での老農夫の死の現実味。
最後に生み出された(1877年)終曲「司令官」での迫真は、スキヒンのピアノ伴奏に依るところが大きい。

ムソルグスキー:
・歌曲集「死の歌と踊り」(ゴレニシチェフ/クトゥーゾフ)(1875-77)
・歌曲集「子供部屋」(ムソルグスキー)(1868-72)
・ラヨーク(ムソルグスキー)(1871)
・バラード「忘れられた者」(ゴレニシチェフ/クトゥーゾフ)(1874)
・神学生(ムソルグスキー)(1867)
・かわいいサーヴィシナ(ムソルグスキー)(1866)
・牡羊座―世俗のお話(ムソルグスキー)(1867)
・蚤の歌(ゲーテ)(1879)
セルゲイ・レイフェルクス(バリトン)
セミヨン・スキヒン(ピアノ)(1993録音)

多くの作品が未完のまま頓挫する、狂人、否、天才モデスト・ムソルグスキーにあって、2つの歌曲集(「死の歌と踊り」、「子供部屋」)の完成度は極めて高い(傑作「ボリス・ゴドゥノフ」と同等の価値あり)。例えば、「子供部屋」でのレイフェルクスの声色を縦横に変化させての歌は何より絶品。

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