第2楽章アンダンテ・コン・モートに見出す慈愛。
ブルーノ・ワルターにとってシューベルトの作品は人生そのもの、愛そのものだった。
ヘルムート・ファーゼル司祭宛の手紙。
ほかならぬ私の所信では、ベートーヴェン、バッハ、シューベルトなどは、イザヤやヨハネらのように予言者風の質であり、霊感を受けている、すなわち、聖霊に満たされています。そして彼らの言葉を理解し、それどころか話すように、私は組織化されておりますので、自分も控え目ながら聖霊の表わすものに与ります。私の演奏が作用するところにもそれを感じます(これを自分の功績などと見ていません)。
(1939年12月26日付、ヘルムート・ファーゼル司祭宛)
~ロッテ・ワルター・リント編/土田修代訳「ブルーノ・ワルターの手紙」(白水社)P249
そしてまた、マックス・ブロックハウス宛の手紙の冒頭で、ワルターは連作歌曲集「冬の旅」の一節を思い出して、次のように書いている。
「今も暖かに胸はときめく」—、シューベルトの歌曲の言葉が、親愛な貴簡を読みましたとき、ふと心に浮かびました。一昨日手もとに届きましたので、厚くお礼を申し上げます。
(1947年5月6日付、マックス・ブロックハウス宛)
~同上書P291
ブルーノ・ワルター晩年の録音であるシューベルトの交響曲に内在する優しさと激しさの混在こそワルターの本懐だろう。抒情的で明朗な第2楽章に対して、モーツァルトのト短調交響曲に影響を受けたといわれる第3楽章メヌエットの嵐のように激する主部アレグロ・モルトに言葉を失う。
「未完成」交響曲は指折りの歴史的名演奏であり(特に、ゆっくり念を押すように歌われる第2楽章アンダンテ・コン・モートがすごい)、名盤だが、(個人的に)それ以上に素晴らしいと感じるのがいまだティーンエイジャーのシューベルトが作曲した交響曲第5番。若い息吹を、老練の指揮者がかつての青春を回顧しながら(?)、いかにも堂々たる壮年のシンフォニーの如く表現する様子に舌を巻く。
第1楽章アレグロの、楷書のような堅牢な形式の中に感じられる爽快な音のうねりは、ワルターの充実した精神の表われなのかどうなのか。終楽章アレグロ・ヴィヴァーチェも推進力抜群で美しい(モーツァルトの焼き直し?!)。
[…] 顧みられることのない録音だと思うが、演奏に漲るシューベルトへの愛情の念はことによると(有名な)1960年のものより強いかも)。やはり第2楽章アンダンテ・コン・モートが美しい。 […]