Klassik unterm Hakenkreuz – Der Maestro und die cellistin von Auschwitz Ein Film von Christian Berger (2022)

「ハーケンクロイツの下のクラシック音楽」というドイツ国営国際公共放送制作のドキュメンタリー。
非ナチ化裁判で無罪になったものの、政治犯として嫌疑をかけられたマエストロ、フルトヴェングラーがなぜナチス・ドイツに残ったのか、あるいは残らざるを得なかったのか、そして、アウシュヴィッツのベルゲン収容所で収監されながら生き延びたユダヤ人チェリスト、アニータ・ラスカー=ヴォルフィッシュの証言を軸に、多くの関係者の証言を散りばめ、構成された実話。
もちろん周知の情報以上の新たなネタはないのだが、何より(これまで幾度も観たであろう)フルトヴェングラーの有名な、数々の(演奏シーンだけでない)映像がAIによってカラー化され、それを鑑賞するだけでも価値あるフィルムになっている。

例えば有名な、アドルフ・ヒトラー生誕記念前夜祭コンサート(1942年4月19日)における「第九」終演後のゲッベルスの(勝ち誇ったような)至福の表情と、どこか(腑に落ちないような)暗澹たる表情を醸す指揮者の表情の対比が、現実を知る後世の僕たちにはどうにももどかしく、世知辛い。
しかしながら、「第九」の演奏は、フィナーレの数分だけだとはいえやっぱり素晴らしい(コンサートマスターのタシュナーは2番手に座しているが、彼の髪を振り乱しての猛烈な加速が相変わらず興奮を呼ぶ)。

・Klassik unterm Hakenkreuz – Der Maestro und die cellistin von Auschwitz (2022)

EIN FILM VON
Christian Berger
MIT
Anita Lasker-Wallfisch
UND
Kathrin Ackermann
Thomas Ackermann
Daniel Barenboim
Albrecht Dümling
Sven Friedrich
Shirli Gilbert
Norman Lebrecht
Tobias Reichard
Chirstian Thielemann
Simon Wallfisch
Teresa Wontor-Cichy

兵士たちの慰労のために催されたAEG工場での(1942年2月26日)、「マイスタージンガー」前奏曲もカラー化で蘇り、断片ながら一層生々しく、名演奏の誉れ高きフルトヴェングラーの芸術を十分に堪能できる(可能ならば全曲をこのフォーマットで観たい)。

ちなみに、アニータ・ラスカー=ヴォルフィッシュも語っているが、戦争がすべてを破壊できても音楽そのものを破壊することはできないのだと痛感する。確かに楽聖ベートーヴェンが「金ではない、德だ」と言った事実を鑑みても、それは物質万能主義の現代への警告であり、人間の心がお金で買えるものではなく、德を積むことで育てるしかないものだということをあらためて知らしめられるドキュメンタリーだ。音楽は永遠不滅なり。


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