岩城宏之指揮東京都響 ルイス・デ・パブロ 「風の道」(世界初録音)

ビクトル・エリセ監督の「ミツバチのささやき」(1973年)が再上映される。
6歳の少女アナの夢と現の往来を見事に描き出し、生と死を、人間の悪業を、そして誰しもが内に秘める慈心に還ることの重要性を訴えかける名作(音楽は、ルイス・デ・パブロ・コスタレス)。

私が子供の頃にも、スペインでは内戦があったのですが、この内戦にしても、単純化して言ってしまえば、一方に従来通りの憎悪を持ったままの孤立を選ぶ人がいて、一方にオープンマインドな、歴史を変えようとする一群がいて、その両者の間の戦いだったと言ってもいいと思うのです。そしてご存知の通り、後者が負けてしまった。
(ルイス・デ・パブロ)
(1988年11月2日、紀尾井町倶楽部にて)
「武満徹著作集5」(新潮社)P112

歴史を知ることは大事だ。
フランスとの、あるいはイギリスとの戦いに負けたスペインはある種の鎖国の中で文化を疲弊させていった。
ルイス・デ・パブロは続ける。

そういう状況ですから、ナショナリズムも当然強くて、音楽に関して言うならば、私が作曲を始めた頃には、新しいものなど全く求められていなかった。民謡イコール、ナショナル・ミュージックみたいな感じでしてね。当時は既にフランスの印象派の影響を受けた一群の作曲家たちがいたのですが、彼らにしても、完全にナショナリズムにのっとった「スペイン的な音楽」を書いただけで、ヨーロッパの他の国々で、例えばストラヴィンスキーやヤナーチェクやバルトークらが、ナショナリズムから出発しつつ、まさにそのナショナリズムを克服するような—普遍的な意味を持つ音楽の創造に向かっていたのとは、全く次元の異なる仕事しかしていませんでした。
~同上書P112

逆境こそが創造の種であり、保守(伝統)の壁をいかに破壊するかが、作曲家ルイス・デ・パブロ・コスタレスの使命だったのである。

従って、私が作曲を始めた時の一番大切な使命は、いかにしてこのナショナリズム—スペインの悪しき伝統から脱却するかという点にあったのです。
~同上書P112

もはやスペイン色不明瞭な(?)ルイス・デ・パブロが武満徹に献呈した大管弦楽のための「風の道」(サントリーホール国際作曲委嘱シリーズ委嘱作品)。

・ルイス・デ・パブロ・コスタレス:大管弦楽のための「風の道」(1987)(世界初録音)
岩城宏之指揮東京都交響楽団

現代の音楽が決して難解なものでないことを作品が映す。
30分の音楽は、ナショナリズムを超え、各々の己との闘争しかないのだということを示すかのようだ。

ちなみに、映画「ミツバチのささやき」サウンドトラックは、先の「風の道」とはまったく風趣の異なる、いかにも美しい映画音楽が展開される。


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