スクロヴァチェフスキ指揮hr響 ブルックナー 交響曲第9番(原典版)(2014.11.27Live)

91歳の老巨匠の棒は明解だ。
ブルックナーの最後の交響曲。

僕がこれまで聴いたこの曲の中で最高の演奏は、ギュンター・ヴァントの最後の来日公演でのものだ(ヴァントは88歳だった)。第1楽章コーダの荘厳さと頂点に上り詰める、拡散される音楽のエネルギーに僕は呼吸が止まるかとさえ思ったほど。あのときの感動と興奮は、20余年たった今もその光景だけでなく、音楽そのものも鮮やかに蘇る。それほどに衝撃だった。

おそらく会場にいる聴衆は金縛りに遭う如く心動かされているのだろうと想像する。
比較的速めのテンポで「颯爽と」というイメージが先行するが、ここでのスクロヴァチェフスキの演奏は実に中庸。ブルックナーの音楽だけを、楽譜を頼りに真摯に表現せんとする使徒たる姿に感銘を受ける。第1楽章のコーダも意外にあっさりと進む。しかし、やっぱりここはこの交響曲の最初のクライマックスであり、わかっていてもつい胸が熱くなる瞬間だ。

フランクフルト・アム・マインはアルテオーパーでのライヴ。
力まぬ、自然体の、野人ブルックナーの舞踊(第2楽章スケルツォ)を、奇を衒わず鳴らす職人の技に感無量。そして、悠久の調べたる終楽章アダージョの、天にも昇りそうな、いつまでも終わってほしくない透明な恍惚。それは決して色艶のない、人間技を超えた神の領域だ。指揮者の棒が降りてもなお沈黙を保つ聴衆のお行儀良さ。
音楽に対する畏怖と憧憬が見事に形になった時だったのだろうと思う。

今日はスタニスワフ・スクロヴァチェフスキの命日。


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