ホロヴィッツ ショパン ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品35「葬送」(1962.4&5録音)

ショパンが彼の最高傑作に見せる柔軟さと音の輝きは、実にみごとな作曲の技法に結びつき、他に比類なきものである。個々の部分の充実と全体の安定性においてこれに匹敵しうるのはバッハのみであるが、ただしバッハは他の前提のもとに立っている。
(1945年)
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー/芦津丈夫訳「音楽ノート」(白水社)P32-33

フルトヴェングラーの思索は実に的を射ていると思う。
しかも巨匠がショパンを賞賛するのは、もう一つ、構築性と心情の両方を兼ね備えている点だという。

少年の頃、衝撃を受けたアルバムの一つがホロヴィッツによるショパンの「葬送」ソナタだった。ほとんどソナタの形式を逸脱したような革新的構成でありながら、確かに見事な構成と、稀にみる抒情性を備えた画期的ソナタを、ホロヴィッツは何と情感豊かに、極めつけのテクニックで翻弄することか。そもそも僕は、第1楽章冒頭グラーヴェを耳にした瞬間に明らかに音楽の虜になっていた。その上、葬送行進曲のトリオにある浄化の音調に感動するも、なお一陣の嵐があっという間に過ぎ去り、生の苦悩を嘲笑うかのような前衛的終楽章プレストに僕はのけ反った。

あの頃の想いを確認しようと、久しぶりに聴いたけれど、60余年前の演奏はやっぱり光り輝いていえ、素晴らしいと思う。一世一代だ。

・ショパン:ピアノ・ソナタ第2番変ロ短調作品35「葬送」(1837-39)
ウラディーミル・ホロヴィッツ(ピアノ)(1962.4.18, 24 &5.9, 14録音)

未だ病の中にあったであろうホロヴィッツの鬼気迫る「葬送」は自身に向けたものなのかどうなのか。ホロヴィッツ以上の巧みな演奏は今や他にもたくさんある。しかし、この録音以上に構築性と心情の両方を見事に表現したものは他にないのではないか。あくまで私見だが、僕はそんなことを思う。

ぼくはいまここで、変ロ短調のソナタを1曲作っているが、そのなかに貴君がすでにご承知の《葬送行進曲》が挿入されるだろう。アレグロ楽章があって、それから変ホ短調のスケルツォになり、その次が行進曲で、そして最後に約3ページの短いフィナーレとなる。行進曲の後で左手が右手と同音(ユニゾン)でおしゃべりするのだ
(1839年夏、友人のフォンタナ宛)
「作曲家別名曲解説ライブラリー4 ショパン」(音楽之友社)P41

ジョルジュ・サンドとのノアンでの一夏に書かれたソナタの哀愁は、ショパンの心の充実度を反映する。完全なるホロヴィッツ。

過去記事(2019年8月4日)

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